『マジカルチェイス』
<MAGICAL CHASE>
発売日 1991年11月15日
定価 7800円
メディア Huカード
メーカー パルソフト
内容  敵を倒して得たお金(くりすたる)で買い物・パワーアップ 
 ・体力回復。メルヘンちっくなデザインの個性的な6ステージを
 疾走する、横スクロールシューティングゲーム。


 この作品は幻の名作として知られている。まぼろしと言えば響きは美しいが、
遊びたくても手に入れられない状態というのはとても残念なことである。
 うかつにもチェックし損ない、超品薄でパッケージすら一度も見たことのなか
ったこのソフトを、よ〜やくよ〜〜やく入手することができた。果たして、ここ
まで評判の良いソフトの出来はどんなものなのだろうか。なにしろ、あるゲーム
雑誌で読者からの熱望により、通信販売という形での再販が実現した逸話を持つ
作品なのだ(これは極めて異例のことである)。
 このゲームには3つの難易度が用意されている。まずは一番簡単な“らくらく
モード”からいってみよう。わくわくしながらプレイを開始する。

 こ……これは……おもしろいっ! キャラクターの動きと曲のテンポがいい!
グラフィックもすごくいい! 敵および、その攻撃とギリギリのスピードですれ
違う浮遊感覚が見事に表現されている。楽しい。楽しすぎる! これまでほとん
どのシューティングゲームで、自分の腕がなまっちょろいばかりにすぐにゲーム
オーバーになり、ふうっとタメ息をついて、しばしボウ然と続けようかやめよう
か考え込む、そんなことがこの作品にはない。楽しくてしょうがないのでゲーム
オーバーになってもすぐさまコンティニューを、迷うことなく選択する。さすが
に上級モードは負ける回数が増えるが、それでも「うまくなりたい。もっともっ
と上達してやる」と闘志がわいてくる。
 基本システムはセガのシューティング『ファンタジーゾーン』に似ている。が、
あれよりもスピード感にあふれ、爽快に遊べると思う。“らくらくモード”は本
当に楽で、何度かコンティニューはしたものの、開始後、数十分でクリアした。
というのも、このモードでは3ステージしか遊べないのだ。この泣かせる設定!
わかっている。このゲームを創った人は、ゲームの面白さというものをわかって
いる! まずは難易度の低いモードで気分よく楽しませてくれて、でもそれでは
途中までしか遊べなくて、シューティングが苦手な人でも初級モードを練習後、
上級モードに挑戦してみようという気にさせる。この作品で遊んでいると、“ス
トレス満杯、惰性で進めているゲーム”を嫌々やっていた自分が、なんだかバカ
らしく思えてくる。そう、ゲームは楽しめなくては! 私は苦しむため、あるい
は批評するためにゲームをプレイしているのではない。楽しむためにやっている
のだ。こんなの、当たり前のことなのに、つい忘れそうになる。

 ゲーム自体の面白さもさることながら、特筆すべきは、背景の描き込みやキャ
ラクターの動きが非常に魅力的な点だ。曲と効果音の出来も秀逸で、曲と敵キャ
ラの動きをシンクロさせていたりして、その調和の仕方はもうほとんど芸術の域
に入っている。女の子うけしそうな雰囲気だから、シューティングというジャン
ルが食わず嫌いになっている女性にもおすすめのゲームである。主人公リプルの
そばにいつもついていてくれる星の精“くるるん&ぐるるん”(アイレムのシュ
ーティング『R−TYPE』の“フォース”みたい)がかわいい。彼らを使いこ
なすことでゲーム展開が楽になる。一瞬、IIボタンから指を放してIボタンを押
さねばならないので最初はうまく操れなかったが、その時々に応じて自由自在に
位置を移動させられるようになると楽しい。また、SHOPやコンティニュー時
に出てくる“ハロウィンのかぼちゃ・ジャック”もいい味を出している。店内に
入ると店主のジャックがいて、商品を見せてくれる。外の猛攻撃から一時逃れて
彼の顔を見ると、なんだかホッとする。
[ミニ劇場]−SHOPにて−

ジャック:「おや、いらっしゃいませ! 外は大変そうですね、お客さん」
リプル :「ぜ〜は〜ぜ〜は〜……も〜忙しいったらありゃしないわ! 聞いて
       よジャックさん、このうら若き乙女を、みんな寄ってたかってイジ
       めるのよぉ☆」
ぐるるん:「自業自得だろー、リプル」
リプル :「う”……それを言われるとつらい」
くるるん:「まあまあ。もう少しだから、がんばっていこうよ」
リプル :「カエルにされちゃたまんないわ!」
ジャック:「お気をつけてー!」
 ありがたいことに無限コンティニューで、コンティニューするとスコアはゼロ になるものの、お金(くりすたる)やアイテム、装備はなくならない。「コンテ ィニューは3回まで。死ぬと装備は当然ノーマル。アイテムも消え去る」という ゲームもそれはそれでやりがいがあるけれど、どうしてもある時点で限界になり、 輝けるエンディングシーンはひとにぎりのテクニシャンだけが到達できる桃源郷 なのだと、あきらめざるをえない。しかしこの作品は、シューティングが得意で なくても大変楽しめる。シューティングってこんなにもおもしろいジャンルなん だよ、とこのソフトは教えてくれる。「簡単すぎて張り合いがない」「むずかし すぎて、やる気がしない」のちょうど中間に位置したナイスなバランスで、やり こむほどに少しずつコツを覚え、先へ進めるようになる。そしてすばらしい映像 と音でプレイヤーを魅了し、ゲーム世界にハマらせるのだ。熱中度はかなり高い。  全6ステージと、面数はそんなに多くはない。が、量より質。一度クリアして からも「今度はもっと上手に、コンティニュー回数も出来るだけ少なくしてやっ てみよう」という遊びかたができる。長持ちする作品には、「超高難易度で簡単 にはクリアできないもの」と、「気合いを入れればわりとすぐに終わるけれど、 面白いので何度も遊んでしまうもの」とがある。前者のような作品は、クリア後 の感動は大きいのだが、とても再び最後までプレイする気力がなく、そっと心の かたすみに「ひどく苦労してクリアした作品」というラベルを貼って、想い出と して飾られることになる。もちろん、それも悪くはないが、私はどちらかといえ ば後者のほうが好きだ。この作品は後者のタイプなのである(もっとも、一番難 しい“どきどきモード”は、やり込まないと、そう簡単にはクリアできない)。  この作品は本当にすばらしい。最大級の讃辞と拍手を送りたい。これなら定価 でも全然惜しくなかった。しかし私は通販チャンスのときにもしつこく見送り、 中古を狙いつづけてしまった。もしずっと見つからなくて、永遠にこのソフトを プレイすることがなかったなら不幸だった。それほど、この作品に触れることが できた幸せをかみしめている。これだから、こういうのがあるからゲームはやめ られないのだ。  このソフトを出したメーカー「パルソフト」は、今は存在しないらしい。こん なに良いソフトを出すソフトハウスがつぶれてしまっていいのだろうか。損失だ。 開発メンバーは生き残っているから完全消滅したことにはならないにしても…… あやうく存在を見逃しそうになった己れの修業不足を痛感する。こういうものこ そ新品で買い、一本でも売上げに貢献すべきなのだ。それが、良い作品が増える 原動力となる。たとえ小さな力でも、私にできることはそれなのだ。
'94 3/4 NIFTY-Serve FCGAMEM
     PCエンジン会議室 #96(改稿)
                    (登録日 '97/8/13)
ソフト発売1991年11月備考感想GM