『MOTHER(マザー)2〜ギーグの逆襲』
<MOTHER 2>

発売日 1994年8月27日
定価 9800円
メーカー 任天堂
内容  キャッシュカードやファーストフードなど、現実的要素を 
 取り入れたコマンドRPG。


 ファミコン版の1は当時のRPG界において、一風変わった輝きを放っていた。
現実世界の外国っぽい設定、助走の必要なテレポーテーション、音楽を効果的に
使用したストーリーなどが、とても新鮮に感じられた。
 自転車やバスに乗る。キャッシュカードで現金をひきだす。ファーストフード
店でハンバーガーとポテトを買って食べ、オレンジジュースを飲む。プレイヤー
のごく身近な環境に似ているけれど、やはり現実とはちがう世界。キャラクター
たちはそれぞれちゃんと自分自身を生きている。ゆっくりのんびりした雰囲気が、
スヌーピーやムーミンの世界を思い起こさせる。

 冒険への期待をあおってくれる、事件の予感をはらんだ導入部。親切につくら
れていると思って油断していたら、すこし歩き回っただけで強い敵に遭い、HP
がゼロになってしまった。まず最初は、自分の弱さを自覚しないといけないよう
だ。「ゆっくり楽しんでね」というメッセージ電波が作品全体をおおっていて、
それに逆行しようとするとストレスがたまったり、敵にタコ殴りされてキャラク
ターが気絶したりしやすい。戦闘バランスはキツめで、ろくに準備もせずに進み
すぎるとコテンパンにノされる。
 そうして何回か致命傷を負ったあと、決心した。早く進もうなどと思うまい、
と。クリアを急げば急ぐほど、思ったほどには進めずイライラする。そんな気分
で、このゲームを遊びたくはない。疲れを感じたら、どんなに先へ進みたくても
一時中断。時間がたって、また遊びたくなったら再開。そういう無理のない遊び
かたをすることにした。戦闘に飽きてきたら町を見学して人の話を聞いて回る。
歩き回るのに疲れてきたら戦闘をし、気分転換をはかる。景色や会話、アイテム
のひとつひとつなどを味わいつくしたころ、物語は次の展開を見せる。

 戦闘のテンポがユニークだ。他のRPG作品のハイスピードなテンポに慣れて
いると、最初はタルく感じるかもしれない。何種類か用意された、ぐにゃぐにゃ
変化する戦闘背景の幾何学模様と、ころころ入れ替わる曲がいい味を出している。
もしこれが「背景はペンキ塗りたてのごとく一色、曲もザコ戦はすべておなじ」
だったとしたら、戦闘シーンの魅力は確実にダウンしていただろう。変化させる
ことでメリハリがつき、飽きにくくなっている。
 フィールド上を歩いていて、敵とぶつかったときの接しかたで先攻・後攻が決
まる。のほほんと歩いているとバックアタックをくらう。敵が近くにいると用心
しながら歩くことになり、緊張感がうまれる。弱いザコを、画面切り替え無しで
瞬時に倒せるのもいい。
 ダメージを受けたとき、HPは徐々に減っていく。回復時も、徐々に回復して
いく。大ダメージを受けたときは、コマンド入力およびメッセージ表示送りをす
ばやく行わないとどんどんHPが減っていってしまうので、急いでボタン連打し
なくてはならない。強い敵との戦いでは緊迫感ある戦闘になる。

 ところどころで「なんだこりゃ」と注意をひく工夫がされていて、プレイヤー
を退屈させないよう気が配られている。ウィンドウのワクの色を何種類かに変更
でき、「今日は何色で遊ぼうかな」と選べる楽しさがある。画面の魅力が薄れる
とゲームへの関心も同時に薄くなってしまうことを、よく承知しているのだろう。
見た目の新鮮さが大切にされている。
 最初は瞬間移動の手段がないため、移動は徒歩。縮小マップは使われておらず
背景の大きさが等身大なので、場所が広く感じられ、歩いていると疲れてくる。
そうやっておいてから自転車やバスやテレポートを体験させると、「わあ、なん
て楽なんだろう」と、しみじみ思う。あるいは、キノコ攻撃を喰らってまともに
歩けない。幽霊にとりつかれて、うっとうしい。やっとのことで病院にたどりつ
き、治る。そこで、「健康ってなんてありがたいんだ」と実感するわけである。
ゲーム進行上、アメとムチが使い分けられているのだ。当たり前だと思っていた
ことが、じつはどんなにありがたいことなのかを教えてくれる。

 プレイ途中、目をとじて、ゲーム中にちりばめられた力づよくあたたかい言葉
を繰り返し味わうことがたびたびあった。いろんなメッセージがあちらこちらに
隠されていて“何か”を感じさせる。心に響く。人生における教訓なんて言うと
かたっくるしいけれど、「もっと明るく活き活きと生きるための知恵」、そんな
ものが読み取れる。それは言葉によるダイレクトな表現であったり、言外に伝わ
ってくる感覚であったりする。アイテムの説明文ひとつにも愛情がこもっている。
ゲーム世界が精神的滋養に満ち、てづくりの温かさがある。
 前作でもそうだったが、あまり長いこと遊んでいると、「TVの前でずっと釘
づけになってないで、何か他のこともしないかい?」とゲーム中で電話がかかっ
てくる。説明書にはよく長時間のプレイを慎むよう注意書きがされているが、そ
れを作品のなかで忠告してくれるゲームなんて初めてだった。まだしばらく続行
する気だったけど、じゃあすこし休憩しようかとゲームをやめてみると、自分が
疲れていて休息を必要としていたことに気づく。あ、やっぱり休んで正解だった
なと思う。あまりゲームに熱中していると、疲れを自覚しにくい。疲れているの
がわかっているのに、やめられないこともある。

 画面上にキャラクターがたくさん存在すると処理が重くなるのは、しかたない
ところか。「ぬおぉ、重い〜!」ってな具合になって世界はスローモーション、
歩行スピードが落ちる。
 グラフィックは、シンプルだが絵心のあるいい絵だ。芸がこまかい。敵キャラ
や一部のマップは少々単純すぎる気もするが、これはこれでいいのだろう。FC
版からトレードカラーとして定着したパッケージの赤が印象的で、カセットラベ
ルや説明書も赤で統一されており、センスがいい。
 曲にはリズミカルな曲、ホッとする曲、ちょっとヘンな曲、といろいろある。
サンプリングの音がおもしろく、効果音の感触もとても良い。

 プレイヤーに積極的にかかわろうとする開発者の意志、何かを伝えたい、じゅ
うぶん楽しんでほしいという強い想いが見える。前半ではすべてが遅く感じられ
て何度も休まねばならなかったが、終盤は非常に盛り上がり、コントローラーを
置く暇を私に与えなかった。終わってみると、あれほど長いと思われた道のりが、
じつは意外と短かったのに気づく。あっさりしている。ていねいにつくり込まれ
てはいるけれど全体的にあともう一歩、練り込みが足りない。音楽や場面、基本
的展開に前作のものがけっこう使われているので、まるでリメイク版のようだ。
なつかしくはあるのだが、『2』ならではの展開をもっと多く見たかった。
 旅自体が楽しいからあまり気にかけないものの、自分はなぜ冒険しているのか、
しばしば忘れそうにもなる。ストーリーに謎な部分が残ったし、キャラクターを
もうすこし深く掘り下げられなかっただろうかという気はする。どちらかという
と目標を達成することよりも、過程を楽しむことのほうに力点が置かれているよ
うだ(確かに、ゲームはエンディングを見るという“仕事”を果たすためだけの
ものではない)。今回物足りなかった点は、おそらく何年か後に出るのであろう
『マザー3』に期待したい。

 忘れてしまった遠い過去。赤んぼうのころの自分。しばらく思いだすことのな
かった、かつての自分。今の自分。イメージが交錯する。涙が出そうになるのは、
なぜだろう。この作品をプレイしていると、つい忘れてしまいがちなゆったりと
した心、人や物を思いやる心を、すこしでも取り戻せるような心地がする。


'94 11/18 NIFTY-Serve FCGAMEM
     ファミコン&スーパーファミコン会議室 #5103(改稿)
                    (登録日 '97/1/22)
ソフト発売1994年8月備考感想