『MOTHER(マザー)2〜ギーグの逆襲』
             (感想)
発売日 1994年8月27日
定価 9800円
メーカー 任天堂
内容  キャッシュカードやファーストフードなど、現実的要素を 
 取り入れたコマンドRPG。

●魂への呼びかけ−<<ほんとうに大切なことを見落とすな>>−

 毎月、次々と大量に発売されては、記憶の闇に沈んでいくゲームソフトたち。
どんな大作でも数ケ月たつと過去のものになり、話題はあたらしい作品へと移っ
てゆく。一作につき、あまり時間をかけていては数をこなせない。いかに世間に
おいていかれないように走るか。メーカーもプレイヤーも、わっせわっせと休む
ことなく走っている。遊びきれないほどたくさんのゲームをとっかえひっかえプ
レイしていると、たまに「私は何のためにゲームをしているのだろう」という疑
問にぶつかることがある。
 この「MOTHER2」も、数々のソフトの中の一本にすぎない。が、そこに
はさまざまなメッセージがこめられており、徒競争のごとくセカセカしたゲーム
業界に、「もうちょっとゆっくり、景色を眺めながら歩かない?」と警鐘を鳴ら
しているかのように思える。

 この作品は、ひとつの「バロメーター」だ。もしも遊んでいてイライラするよ
うなら、あなたはすこし何かにあせりすぎているのかもしれない。ゲームのテン
ポがノロいのではなく、自分のテンポが速すぎるのだ。人生、そんなにあわてる
ことはない。もっとのんびりいこうじゃないか。急ぎすぎると何かを見失ってし
まうよ…そんなメッセージが聞こえてくる気がする。

 未来に、とても楽しみなイベントがあるとする。早くその日が来ないかな、と
わくわくして何も手につかない。時間があっという間にたって、今すぐ当日にな
ればいいのにと思う。逆に、とても嫌でたまらないイベントがあるとする。その
ことを想像しただけで気分は落ちこみ、そんな日は永遠に来なければいいのにと
思う。しかしどちらにしても、その瞬間はいずれやって来る。それならば、いま
現在のこの瞬間(とき)を大切に充実させて過ごしたほうが、どれだけ良いであ
ろう。
 「MOTHER2」をプレイしていると、早く次のイベントが見たくてじれっ
たくなる。が、どんなにあせっても、あちこち回って力をつけて、時が来ないと
イベントは起こらない。それならこのテンポに身をまかせて、町の空気を吸った
り雰囲気を味わったりして「世界」を楽しみながら進んだほうがおもしろい。

 ゲーム中、電話で話すだけで姿をあらわさないパパ。この、見えない「ファザ
ー」の存在が、ゲーム全体をやさしく見守ってくれている。主人公があれだけ自
由に動き回れるのも、理解ある両親の愛情に支えられているからだろう。人は冷
たいものに触れると心を硬くし、あたたかいものに触れると心をひらく。この作
品はあたたかいものだ。しかし、それはけっしてぬるま湯ではない。

 年をとるにつれ、だんだん好奇心は薄くなりがちになる。忙しさにかまけて、
興味あることでも時間に流されて見過ごしてしまう。そういうことが積み重なる
うち、次第にものごとに無関心になっていく。昨日の晩は何を食べたんだっけと
か、自分の本当にやりたいことって何だろうとか、なんだか「生きている!」と
いう実感がつかめない、世の中セコくて心のせまい奴ばっかりだ、いいことなん
て何ひとつない、生きててもなんとなくむなしい……。
 でも本当は、この世にはすばらしいものが満ちあふれているのだ。自分の見方
さえ変えれば、すべては新たな発見となる。たったひとつの自分の「いのち」。
そして自分の周りにある、いろいろな「いのち」。この作品は、すべての生命へ
の賛歌である。

 周りを注意深く見回せば、わくわくするような冒険が、自分のそばに現われる。
「自分の国<マジカント>」は自分の心の中に、そして現実の目の前にもある。
どう冒険するかは、自分次第だ。

 声が聞こえる……
 「ゲームばかりやってちゃいけない。人生には、他にももっとたくさん楽しい
ことがある。もちろん、ゲームで楽しむのもいい。でもそれだけをやっているの
ではなく、いろんなことをしよう。本を読んだり友達と遊びに出かけたり料理を
つくったり犬と散歩したり。そういうさまざまなことをひとつひとつ味わうこと。
それで疲れたらゲームで息抜きしよう。マザーの世界はいつでも君を歓迎するか
ら。それだけの準備はちゃんとして、君が来るのを待っているから」
 ……あなたにも、聞こえただろうか?
 必本スーパー! ’95 3月号「REVIEWS」掲載
                    (読者投稿・原文)
                    (登録日 '97/1/22)
ソフト発売1994年8月備考レビュー