「さぁさぁ、お待ちどうさま! できましたよ。たんとめしあがれ」
ほかほかと湯気をたてる料理皿がならぶ。大きなサラダボウルも中央にどんと置かれた。エケエケ酒もある。食器類は無個性な大量生産品でなく、すべてハンドメイドのようだ。
「いっただきまーすっ!」
夢中で料理をパクつき始めるライル。
「はふはふ、しっかし、さすがキング・ノールの財宝探しはメチャてごわいよな」
「そうねー。仕掛けがものすごいんだもん」
「仕掛け作った奴さ、きっと芸術家か何かだぜ」
「プレイヤーさんの感想は?」
「今までのゲームじゃ、十字キーの斜め入力なんてほとんど使わなかったのに、この作品じゃ、それが基本でしょ。最初はむずかしそうだなぁって思ったんだけど、慣れれば何とかいけますね。それよりもトリッキーな仕掛け、飛び移りジャンプ、複雑に入り組んだマップには手こずりました。何度も何度も失敗して戻されてダメージ受けて同じ動作繰り返して、もー嫌になりそうなくらい」
「ライルってトレジャーハンターやめても、曲芸師として食べていけるわよね」
「トレジャーハンターはオレの天職なんだ。やめる気はないね」
「洞くつとかに入ると、瞬間で脱出できる手段がないですよね。どんどん体力が減っていく。ハッと気がついて引き返そうとしても、時遅く気絶。またセーブしたところからやり直し。これ、すっごいくやしい。タメ息の嵐」
「……あまり一度に深入りしないほうがいいわね、確かに」
「あ、ライルくん、おかわりありますよ」
ライルは二皿めのカリール・ア・ライスに挑戦していた。
「ちょっと水もらえるかな。これ、いけるけどすっげーカラい」
「メルカトル特産の香辛料使ってますからね」
からになったコップに新たな水をそそぎながら、主人は話をつづけた。
「グラフィックが立体的で、魅力ありますね。今まで見てきたゲームの、平面的画面構成と比べたら、かなり新鮮に感じます。段差の違いがパッと見てわかりにくいところがあったり、動かないキャラが人形みたいに見えてしまうこともありましたけど(笑)。難易度はけっして低くないんですが、それでも放り出せないのは、やっぱりグラフィック、世界観、キャラクターの魅力のおかげでしょう」
「うふふ、あたい魅力あるでしょ?」
フライデーが得意げに、ライルと主人の周りをひゅんひゅん飛び回る。
「うん、魅力的。ライルくんも好き。他のキャラの扱いは、すこし中途半端な気がしたけどね」
「あたいとライルが目立ってればそれでいーのよ」
「……それにしても」
主人はすこし言葉を切ると、一気にまくしたてた。
「このむずかしさには悲しいものがあります。見た目がとてもおもしろそうだから、すごく期待してたんですよね。で、プレイしてみると実際、おもしろいんですが……もうキツくてキツくて。真剣に泣けます、この難易度は」
「あれっ。プレイヤーさん、エケエケ酒もうそんなに飲んじゃってる!」
「びんの量が半分になってるぞ」
「ゲームって、楽しむためにやるもんですよね。『ランスト』はじゅうぶん魅力ある作品なのに、結局、アクションや謎解きが苦手な人をはねつけてる気がするんです。苦手な人はやらなくっていいなんて考えは、すごく閉ざされてる。これだけ実力ある開発者なら、エンターテイメントとしてもっと多くの人が楽しめる、遊びやすくてバランスのとれたものを創りだす力があるはずです。これじゃあ、指でツンと押しただけで奈落の底へ落下してしまいそーに危険なバランスに思える。私は謎解きは好きなほうだけど、とにかくトラップが多くて、すごいストレスがかかりました。胃がもう痛くて。どうしてゲームやるのにここまで苦しまないといけないんだろうって。内容がおもしろいだけに、よけい悲しくてくやしくて……」
「ま、不器用な人から見たら、そうなるかもね」
「おいフライデー、不器用ってハッキリ言うなよ。ホントに泣いちゃってるよ、このひと。泣きじょうごなのかな。あのぅ、もうそのへんにしといたほうが……」
すると主人は、ビクッとするような速度でバンッ、とカウンターを叩いた。