「とても無理だ、こんな難しいのを突破できるわけがない!」と弱音を吐かず
にはいられなかった最難関のコースを、粘りに粘って根性でクリアしたときの、
あの震えるような達成感。シューティングはあまり得意ではないと思っていた私
でも、がんばればできるのだと教えてくれた−−それが、スーパーファミコン版
『スターフォックス』だった。3Dシューティングがこんなにも楽しいものなの
だということを私は初めて知った。
その続編、今回の『スターフォックス64』はグラフィックが格段にパワーア
ップ、見ごたえある迫力のシーンが展開する。前作のように難易度がレベルごと
にはっきり分かれておらず、途中の行動によってルートが分岐していく。「この
ポイントをこなせるなら難しい面でも大丈夫なはず」というチェック箇所が設定
されており、腕がよければ難しいコースに、下手なら簡単なコースをたどるよう
に難易度が選択される。また、付属の振動パックをとりつけると、ダメージを受
けたときなどにコントローラーがガタガタ動いたりもする。ただし、これはどう
してもなくてはならないものでもない。つけるかどうかは好みで決めるとよいだ
ろう。
新しい攻撃パターンとして、宙返り・Uターンを駆使して背後をとったりとら
れたりするドッグファイト、目標のロックオンなどの動作が加わった。スーパー
ファミコンよりボタン数が多く、いろいろな操作があるので思う通りに動かせる
ようになるまで少しかかるが、自機の動きがずいぶん軽やかになり、アイテムも
かなり取りやすくなっている。スティック操作に慣れると、もうSFC版の自機
制御はやりにくくて仕方がない。
ただ、Bボタン(ボム発射)とCボタン左(ブースト)の位置が近いため、ス
ピードを上げようとしてボムを誤射してしまいやすいのは困る。ボムは貴重だか
ら一発たりとも無駄にしたくない。チラッと手元に目を走らせてボタン位置を確
認しなければならないのは不便だ。前作では、4種類の操作方法から自分に合う
ものを選択できた。今回もキー割り当てを変更できるとよかったのだが、本編中
に操作方法の説明が入る都合上、つけられなかったようである。つまり、初心者
のための説明を優先させたことになる。
この「初心者向け」というコンセプトは、ほどほどに抑えたゲームの難易度、
より親しみやすいデザインになったキャラクター、そして人気アイドル広末涼子
を起用したTVコマーシャル等からもうかがえる。「それほど熱心なゲーマーで
はない一般のプレイヤーでも、粘れば最後までクリアできる」「女の子でも楽し
める」ゲームを目指した印象を受ける。このシリーズを初めてプレイする人には
多少難しく思えるかもしれないが、前作でさんざん苦労させられた“岩や資材の
回避”もそんなに過酷ではないし、コツさえつかめばボス戦も楽勝だ。手ごわい
箇所もあるが、前作ほどの苦闘は見あたらない。難易度は下がっている。
さらに64版では、敵・味方含めてキャラクターが声入りでしゃべる。ゲーム
オーバーになっても、くじけず何度でも再挑戦する気力のあるプレイヤーは別と
して、「全然進めないから、もうやめちゃおうかな」と思いがちなプレイヤーに
「もう少しがんばってみようか」という気を起こさせるには、ゲーム世界に親し
みをもってもらうのがいい。キャラクターが攻略アドバイスをくれたり、うまい
プレイをほめてくれたり、細かい状況の違いによってセリフが様々に変化したり
するのは、あきらめやすいプレイヤーをひきとめる効果があるわけだ。
基本的に、64版はSFC版と似たような流れを汲んでいるが、様々な点で、
その性質は異なっている。特に注目すべきは、「SFC版が“個”のゲームだと
すると、64版は“集団”のゲームである」という点だ。これは、単に「SFC
版は1人プレイ専用で、64版には対戦モードがある」「SFC版が結果的にマ
ニアックな狭い層を対象としていたのに対し、64版はより多くのプレイヤー層
を想定している」といった意味だけにとどまらない。「プレイ中、プレイヤーの
注意がどこを向いているか」が違うのだ。
前作では仲間が撃墜されて戦線を離脱しても、「あ〜あ、しょうがないな」と
思うくらいで、さほど困らなかった。どちらかというと「ひとりで戦っている」
感じが強く、仲間たちは主人公フォックスのリーダー性を演出するためのもので
しかなかった。今回は仲間の特殊能力をゲームシステムにからめ、セリフを大幅
に増やすことで彼らの存在感が増し、チームを組んで協力して戦っている感じが
出ている。常に仲間の存在を意識し、助けたり助けられたりする「仲間とともに
いる温かさ」を、前作で感じることは少なかった。その点、64版はチームプレ
イという設定を活かしきっていると言える。
しかし、弊害もないではない。声がひんぱんに入ることによって、プレイヤー
の画面への集中度は下がる。状況を説明されると、知らず知らずのうちにそれに
頼る。前作では、たまに出てくるセリフは簡単なカタカナのメッセージ+意味の
つかめない効果音だったので内容を感覚的にとらえていたが、今回は嫌でも頭の
中に言葉の洪水が押し寄せてきて、そちらに気をとられてしまう。メッセージと
展開が密接につながっているため、メッセージを完全に無視するわけにもいかず、
声を消す設定変更はゲーム開始前にしかできない。そのうえ、横360度の視界
で戦うオールレンジモードでは、レーダー部分を見つめる時間が長い。ゲーム全
体を通して、目の前の画面だけに集中しにくくなっているのだ。もちろん、そう
することでしか表現できない面白さもある。この作品の場合、演出が魅力的で、
イベントで見せる狙いは成功している。だが一方、自機との一体感が前作より薄
れたことを改悪と考える前作ファンも、少なからずいるのではないだろうか。
私の場合、セリフの大量挿入よりも気になったのは難易度であった。SFC版
で鍛えられたおかげで全ルートをクリアするのは前作ほど大変ではなかったし、
ずっと記憶に残るであろう名場面はいくつかあっても、「苦労に苦労を重ねた末、
ようやくクリアした際の充実感」は残念ながら、あまりなかった。だから私は、
このゲームを難しいと感じる人がうらやましい。根気さえあれば、SFC版を全
力で遊んだかつての私のように、きっと大きな感動を得られるだろうから。それ
だけの完成度を有しているのは間違いない。最初はなかなか進めなくても、プレ
イ回数を重ねるごとに敵やアイテムの出現位置を覚え、動きを見切れるようにな
り、ミスが減っていく。何度も挑戦しているうちに少しずつ上達していく絶妙の
ゲームバランスは今回も健在だ。
現在、NINTENDO64はファミコンやスーパーファミコン時代のような
圧倒的シェアを誇っているわけではない。ソフト発売ペースがライバルの他機種
より遅く、ソフトの種類も少ないと、一本一本にかかる責任は重くなる。ソフト
の売れゆきはハードの運命を左右する。主軸を担う任天堂の自社ブランドソフト
ならば、なおさらだ。その結果、「より多く売れること」という命題を第一に背
負わされ、難易度を手加減した一般うけしやすい内容にせざるをえないのだとし
たら、少々残念だと思わずにはいられない。
確かに、より難しいモードを隠しておくことで、熟練者への配慮もなされては
いる。繰り返し遊べる奥深さはちゃんと備えている。が、難易度を変えてみても、
その場面を一番最初にクリアしたときの嬉しさにはやはり及ばない。私はできれ
ば、SFC版くらいの苦労をしてこのゲームをクリアしたかった。そうすれば、
もっと感動できたはずなのだ。前作と比べて、初心者向けに変質した『スターフ
ォックス64』を見ると、これはこれで良い作品だと認めつつも、どこか寂しく
思う自分がいるのである。
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