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【スーパーファミコン】
『伝説のオウガバトル』
<OGRE BATTLE SAGA〜EPISODE FIVE 
 THE MARCH OF THE BLACK QUEEN>
発売日 1993年3月12日
定価 9600円
メーカー クエスト
内容  ファンタジー・シミュレーションRPG。ユニットを派遣して 
 マップをクリアしていき、帝国の支配から民を解放する。


 シミュレーションゲームというのは、とかく時間がかかる。覚えなければいけ
ない決まり・こまかい数値データが多く、手をつけるのに少し決意が要るのだ。
説明書をじっくり読んでから始めないと、わけのわからないうちに全滅の憂き目
をみやすい。この作品も、その手のとっつきにくいものだったらやっかいだなと
思いつつ、試しに説明書をほとんど読まずにゲームを開始してみる。
 まず最初に名前を聞かれる。魔法使いがタロットカードをめくり、いくつかの
質問をしてくる。回答のしかたによって、キャラクターの初期設定が決まるよう
だ。画面センスがよく、雰囲気がとても出ていてひきこまれる。イントロとして、
うまいやりかただし、自分らしさが反映したキャラで始められるのはうれしい。

 さて……操作がわからないのにできるだろうか? マップ上に自分のキャラが
いる。どの地点に移動するかを決め、剣のカーソルを動かして目的地へグサッと
突きたてると、そこへ向けて勝手にキャラが歩き始める。最初のマップは本当に
狭い。導入ステージということで、操作説明をていねいに教えてくれるのがあり
がたい。しかも、すべてのアイテムやコマンドの説明がセレクトボタンひとつで
ポンと出て非常に便利だ。雪崩のようにいっぺんに知らないことが出てくると、
理解するのを放棄したくなるし、めったに入手できない貴重品は、効果がわから
ないと無駄に使ってしまうことを恐れて、うかつに試せない。その点、この作品
は親切である。最初に説明書を熟読しなくてもゲームに実際に触れながら、いろ
いろなことを覚えていけるのだ。いくら魅力的なゲーム世界でも「わかる奴だけ
ついてこい!」では、プレイヤーを限定してしまう。

 戦闘は一風変わっている。オートバトルが基本、キャラクターはそれぞれ自分
の攻撃方法で自動的に動く。プレイヤーは状況を見てまずいと思ったらボタンを
押して中断させ、必要な援助を与える。プレイヤーに可能なのは戦略の指定と、
タロットカードによる特別な力の行使、この2つだけ。個別キャラへのこまかい
指示はできない。ただ「がんばれ!」と、じっと見守る。一回あたりの戦闘は、
どちらかが全滅するまでやるのではなく、お互いがある程度攻撃したら終了する
ようになっている。ダラダラ長く続かなくて良い。

 音楽、効果音、グラフィックの出来が大変良く、戦闘画面は斜め見下ろし型で
立体感が出ており、新鮮に感じられる。もし、相手と真正面から向きあう『ドラ
ゴンクエスト』タイプ、あるいは画面左右に味方と敵が分かれる『ファイナルフ
ァンタジー』タイプの視点のどちらかを採用していたら、ずいぶんのっぺりした
印象を与えて、魅力は減少していたに違いない。パッケージイラストとゲーム中
のキャラクターの絵のイメージも感心するくらい似ていて、質感までもよく表現
できているのがすばらしい。パッケージイラストは、ひとめ見て購入欲をそそる
ものであることが理想的だが、ゲーム中の絵とのイメージの一致という要素も、
大切な点ではないだろうか。

 このゲームの特徴として、画面右上に静かな威圧を放って存在しているのが、
「カオスフレーム」というメーター。民衆の支持度をあらわし、その状態が展開
の明暗をわける。白いメーター表示が上下するのだが、下手な進みかたをすると、
限りなくゼロに近い状態になって白い部分が見えなくなる。おっ、少し芽が出た
なと思っているとたちまち消え去る。コツをつかまないと、高く維持しておくの
は至難のワザだ。
 歴史シミュレーションの場合、すぐに機嫌をそこねる武将にワイロを贈ってひ
たすらゴマをするという、卑屈になってしまいそうな行動が必要だったりするが、
この作品では「正しい行動」をとることが重要になる。どうすることが「正しい」
のかを学ばねばならない。また、RPG系ゲームでありがちなのは、「殺られる
前に殺れ。とにかく勝てばよい。敵のHPをゼロにしさえすれば、すべて平和に
なるのだ理論」である。ゲームでは、殺りくが喜々としておこなわれる。勇者は
いくら敵を殺しても、正義の名のもとに許されてしまう。この作品では、カオス
フレームを設置することによって、そのことに疑問を投げかけている。どんどん
どんどん下がっていって気がついたらドン底まで落ちているカオスフレームを見
て、何がいけないんだろう、これを上げるためにはどうすればいいんだろう、と
考えさせられる。お金と時間と人の、本当に賢明な扱い方とはどういうものなの
かをうまくシミュレートしたゲームシステムになっている。
 あるものを守るためには、より多くのエネルギーを必要とする。無視して踏み
つけてしまえば確かに楽で、てっとりばやい。だが、それは後のことを考えてい
ない、誰が傷つこうとかまわない、自分勝手なやりかただ。起こる様々な出来事
を通してプレイヤー自身に考えさせる、そうしてこそ、テーマはすんなりと心に
しみ通ってくる。単に美辞麗句を一方的に並べるより効果的だ。自分自身の思考
をあれこれ働かせられるゲームは、やっていて楽しい。

 一度クリアした後、二回め以降のプレイでもキャラ設定などが豊かに変化する
ため、飽きにくい。プレイするたびに、最初は触れられなかった部分をじっくり
味わえ、ゲーム世界の奥深さを知ることができる。遊ぶたびに新しい発見がある。
そして最低二回プレイすることによって、よりはっきりと主題が伝わる。
 欠点らしきものを挙げるとすれば、いったん、ひとつのマップの攻略を始めた
ら、途中でセーブや全面撤退ができないこと。少しだけ遊んで終わろう、という
わけにはいかないかもしれない。たくさんのユニットを扱い、進行がリアルタイ
ムなので結構大変である。さっさとクリアしてしまおうとするより、じっくり取
り組んだほうがよさそうだ。それと、不利な状況で戦闘が長びくときはちょっと
展開がマンネリ化する気もする。これは、多少の違いはあれ、地域マップ画面が
一様に似たような地形であることにも原因がある。建物の中などが戦場になれば
もう少し、マップごとの特徴がついたと思う。これが個性だといえなくもないの
だが。

 一本のソフトは本来、これくらい練りこまれたのちに発売されるべきだ。定価
をつけて商品として売り出すのならば致命的なバグなどあってはならないし、少
なくとも値段ぶん楽しめるだけの内容を持っていなければならない。このソフト
は値段ぶん以上楽しめると思うし、とてもよくできている。ゲームの質のランク
は、相当高いところに位置するだろう。
'94 4/8 NIFTY-Serve FCGAMEM
     ファミコン&スーパーファミコン会議室 #144(改稿)
(HP登録日 '97/6/11)
ソフト発売1993年3月備考なし

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