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【スーパーファミコン】
『スーパーマリオRPG』
<SUPER MARIO RPG>
発売日 1996年3月9日
定価 7500円
メーカー 任天堂(→メーカーHP
内容 マリオワールドのキャラクターたちがたくさん出てくる、コマンドRPG。


“良質”を絵に描いた、RPG版マリオ

 「任天堂がマリオを題材にしたコマンド型RPGを発売する」と聞いて、
まず感じたのは意外さだった。任天堂の看板キャラクター・マリオといえば、
パッと思い浮かぶのはアクション。はっきり“RPG”とつけないことには、
ジャンルを勘違いされる恐れがあるのだろう。じつにわかりやすい作品タイ
トルである。
 グラフィックにかなりの力が注がれており、電源を入れると始まる約5分
間のデモをひととおり見ただけで、力作であることが伝わってくる。ていね
いに描き込まれた良い絵だ。キャラクターの動作・表情が大変チャーミング
で演出の芸がこまかい。倒すのがかわいそうなくらいカワイイ敵もいる。絵
や音に、ほのぼのとした良さがある。モンスターを含む全てのキャラクター、
背景や曲や効果音のひとつひとつに、いきいきとした生命力が宿っている。
グラフィックや音は、ゲームを構成する大切な要素であり、良いにこしたこ
とはない。が、大切なのはそれ単体で“良い”ことよりも、“印象に残るか
どうか(その作品にとって、どれだけ効果的な役割を果たしているか)”で
ある。良い作品の条件のひとつとして、ある場面が記憶に残ることが挙げら
れる。絵でも言葉でも曲でもいい。印象に残るというのは非常に大切なのだ。

 操作性は良好で、難易度も高くなく遊びやすい。単にマリオワールドのキ
ャラクターを使用しただけの内容ではなく、移動や戦闘に、マリオの得意な
ジャンプ技がちゃんと活かされている。アクションRPGとは、戦闘がアク
ションになっているゲームのことをいうが、この作品はコマンドタイプの戦
闘にアクション性が加えられている。画面の動きにあわせてタイミングよく
キー入力すると、状況がより有利になるのだ。コマンド入力後、結果を見守
るだけでなく、より能動的な画面への介入が可能になるため、画面への集中
度が高まる。
 マップが立体的でキャラクター操作に斜め入力が必要となるため、距離感
がつかめず、移動しづらいこともあるが、従来のRPGでは回り道するしか
なかったマップの段差を乗り降りできるのが、とにかくいい。コマンド選択
型RPGにアクション性を加えたゲームはあまり見たことがない。企画した
時点でゲームシステムが固定されてしまうのか、コマンドRPGの移動画面
では「キャラクターはジャンプできない」ことが前提になっているかのよう
だ。ジャンプする必要がないから、他の作品がそうだからという理由で「地
面に密着して移動」するパターンが多い。もちろん、悪いわけではないのだ
が、従来とは違ったシステムをつくりだそうとしないワンパターン精神は、
ちょっと悲しいかもしれない。ジャンルにとらわれない自由な発想こそ、新
しい魅力が生まれる泉なのだから。

 この作品も、他にはそれほどすごい新アイデアを盛り込んであるわけでは
なく、どこかで見たアイデアを集めてある印象だ。ただ、ひとつひとつの場
所・場面に愛着がわくように、ひたすら、ていねいに創られている。小さな
こまごまとしたところで、キラリと光る表現がいくつも散見される。従来の
コマンドRPGがいかに型にはまっているか、プレイヤーへの印象づけをす
る点でさぼっているかが実感できる。何も、歴史に残る大発明的アイデアで
なくてもかまわない。ちょっとした、気のきいた工夫ひとつで、ゲームの面
白さはぐんと上がるのだ。
 ところどころに、コインを稼げるミニ・アクションゲームが設置されてい
て、ミニゲームなんてやりたくなくても強制的にやらされる場面があるのは、
「大人が小学生の子供たちを引率して遊園地に行き、自分は見てるだけのつ
もりがそうは問屋がおろさず、いい年してメリーゴーランドに乗るはめにな
ってしまった」時のような気恥ずかしさを少々感じる(単純なアクションで
も結構、ムキになってやってしまうのだが)。このあたりは低年齢層向けだ
なと思わせるが、楽しさがいっぱいつまった、いいゲームである。「吟味さ
れた上質の材料をブレンドした栄養ドリンクを、センスのよい容器を眺めな
がら少しずついただく」−−この作品のプレイ感覚はそんな感じ。安心して
ゲーム世界に没頭していられる。数々の要素を活かしきる展開と配置の巧み
さはさすがの手腕だ。プレイしていると、「ゲームって楽しむものなんだよ」
という言葉が聞こえてくる気がする。

 人は、なぜゲームをするのだろうか? 趣味。ストレス解消。暇つぶし。
現実逃避。理由は何でもいい。遊ぶことでいくらかの元気を得られれば、活
きた時間を過ごしたことになる。しかし、心の奥に悩みや不満が渦巻いてい
たら、どんな名作でも充分に楽しめないかもしれない。大切に創りあげられ
たものを、大切に味わえる自分でありたい。
(「まぐまぐプレミアム」発行(2002.11.13)・
有料メールマガジン「巴かずみのゲームソフトレビュー(有料版) Vol.2」改稿)
(HP登録日 2003/3/8)
ソフト発売1996年3月備考なし

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