『魔神転生』

発売日 1994年1月28日
定価 9800円
メーカー アトラス
内容  3DコマンドRPG『女神転生』シリーズの世界観を用いた 
 シミュレーションRPG。すごろくのような全体マップを進 
 みながら、クリア条件の設定された各シナリオをクリアして 
 いく。


 遊んで納得。『女神転生』の世界(メガテンワールド)は、かなりシミュレー
ションRPGにおあつらえ向きな素材なのであった。「魔獣召喚と合体」「移動
と召喚によって消費されるポイント」「会話による、仲間のスカウト」「善・悪
・中立の属性」などの要素が、このジャンルにぴったりなのである。

 TV画面の約4分の3を占める、広々とした大きさの戦闘グラフィック画面。
画面切り替えが遅くなく、テンポを損ねない。緻密に描きこまれた背景画も非常
に魅力的だ。システムはなかなか使いやすいし、魔獣との会話もバラエティに富
んでいて笑わせてくれる。月齢の変化によって魔獣の気分が異なり、それぞれの
性格がうまく反映していて面白い(魔獣と会話できるのは主人公だけ。彼は大変
忙しい。仲間を増やすためにセッセとナンパに励まねばならないし、戦って自分
のレベルを上げないと、チーム全体の強さも上がらない)。
 それと、説明書が親切で、攻略本に載っていそうな詳しいデータまできちんと
掲載されている。ゲーム上ではキャラ同士の戦闘相性度が数値表示され、戦いや
すい。こういう、安易に攻略本に頼らせない姿勢は好感が持てる。メガテン世界
はただでさえ見た目がマニアックだから、初心者をていねいに導くことは大切な
ポイントであろう。

 絵やメッセージなどには光る表現がチラホラ見受けられるものの、残念ながら
ゲームのつくりは全体に大味だ。シナリオクリア条件が「敵の全滅」ではなく、
「ある地点までたどり着く」の場合、敵を全滅させてから移動だけを繰り返さな
ければならない。全滅させたら移動は省略してほしかった(宝箱を取り損ねない
ようにとの配慮なのかもしれないが、それは、取れるように戦略をたてなかった
プレイヤーのミスだ)。
 それから面倒なのが、「クリア済みの場所にうっかり入ってしまったら、再度
クリアしてそこから脱出しなければならない」という仕様。3ケ所連続するシナ
リオだったりすると悲惨である。マップがだだっ広く、戦いがいのない弱いザコ
敵が次々わいてきてウンザリする。敵の数が多いので敵ターン終了まで結構待た
される。セーブしていないとリセットするわけにもいかず、しぶしぶ戦うことに
なる。シナリオクリア時にもデータセーブしておけるとよかった。

 ゲームの難易度は低めになっている。それ自体は別に構わない。まずいのは、
プレイ中の緊張感や、シナリオクリア時の達成感が薄いことだ。難易度の高低に
かかわらず、いかにプレイヤーにやりがいを持たせ、楽しませるか。そういった
点を考慮した難易度調整および演出がされているという感触が、どうも感じられ
ない。展開にメリハリをつけるためにテンポをゆるめるのと、単にダラダラ時間
をかけるのとは、似ているようでまったく違う。
 ただしボス戦だけは例外で、味方と敵ターンでずっと同じ曲が流れ続け、迫力
がある。重みのある曲と効果音のおかげで、だらけがちなゲーム展開がかなり救
われている。ノリのいい曲にのって魔獣を次々と召喚していくのはかっこいいし、
魔獣召喚時に叫び声の残響音が聞こえるのはゾクッとくる。しかし悲しいかな、
ゲームバランスの煮詰め具合が甘いせいで、ワクワクするようなスリルが全編を
通して持続しない。

 戦闘では特に、経験値の入りかたと、クラスアップのバランスに疑問を感じた。
強い味方キャラとザコ敵が対戦して運よく敵が生き残ると、そのたった一度の戦
闘でザコ敵が一気に最高クラスに成長する。不自然だし納得がいかない。また、
味方と敵グループ以外に出てくる「中立悪魔」の存在が、ゲームバランスを崩し
てしまっている。中立の悪魔キャラは主人公のレベルのかなり上であっても仲間
になってくれ、しかも強力。彼らとの会話成功率は月齢に関係なくいつも80%な
ので、何度か会話すればあっさり仲間になる。存在数も多く、かたっぱしから声
をかけて回れば、わざわざ自分で合体させて作らなくてもすむ。悪魔合体ででき
る悪魔はたいてい中立メンバーより弱いし、強いのができても、主人公のレベル
が足りず、扱えなかったりする。中立悪魔は、簡単に仲間にならないようにした
ほうがよかったのではないだろうか。

 どう進むかによって最後の結末が変わってくるマルチエンディングで、何度も
遊べるつくりになってはいるが、繰り返しプレイするにはちょっとつらいものが
ある。運命を決める途中の分岐も、「何となく進んだらこうなってしまった」と
いう感じで偶発性が強い。自分でどの道を進むべきかを選ぶための材料提供が少
なすぎて、まるでアミダくじのような味気なさなのである。
 よいゲームシステムと世界観があっても、それだけでは面白いゲームにはなら
ない。良質の作品に仕上がるかどうかは、根気よく作り込んでいく地道な努力に
かかっている。すばらしい輝きを秘めた原石は、センスよくカットし、研磨して
こそ宝石としての真価を発揮する。「女神転生をシミュレーションRPGにして
みた」というだけでは、せっかくの素材の良さが泣いてしまう。


'97 1/13 NIFTY-Serve FCGAMEM
     ファミコン&スーパーファミコン会議室 #31885
                    (登録日 '97/2/12)
ソフト発売1994年1月備考なし