『ファイナル ファンタジーV』
<FINAL FANTASY V>

発売日 1992年12月6日
定価 9800円
メーカー スクウェア
内容  もうこのシリーズ抜きにはRPGを語れない、ひとつの 
 「必プレイ・ゲーム」と化しつつある気がする有名コマ 
 ンドRPGシリーズ第五弾。


 このソフトで遊びはじめる前、ある決心をしていた。「今度こそ絶対に全滅は
すまい」と。このシリーズでは、自分がじゅうぶんなレベルに達していないと、
必ずと言っていいほど全滅をくらう。全滅して悲しい思いをせずにすむためには、
多少回り道になっても経験値をたくさん稼いで、強くなっておく必要がある。
 ……しかし、いくら回り道をしても、やはり全滅してしまった。しょせん、こ
のシリーズで一度も全滅せずにクリアしようというのは無理なのかもしれない。
全滅することが当然のようにつくられている部分もある。

 普通、「ゲームバランスが良い」というのは長所を意味し、簡単には全滅しな
いこと、敵がむちゃくちゃ強くないことなどを指す。しかし、このシリーズで遊
んでいると、「ゲームバランスが良いとはいったいどういうことなのか?」と考
えてしまう。とんでもなく敵が強くても、それを打ち破ったときの達成感は簡単
な場合とくらべ、圧倒的な差がある。作品に対する愛着度も想い出の深さも違っ
てくる。苦汁をなめさせられれば闘志がわいてくるし、何度も同じ場所を通過す
れば景色の印象も深くなる。すいすい進めるがあまりに簡単すぎて、クリア後の
印象が薄い作品だってある。
 結局、簡単だろうがむずかしかろうが、プレイヤーの心をひきつけ、飽きさせ
ない工夫がされていれば、通常言われる短所も長所に変わってしまうのかもしれ
ない(もちろん、限度はあるが)。私はRPGにおいて全滅させられるのはキラ
イだが、シビアで緊張感のある空気はけっこう好きだ。

 他のRPGだったら文句のひとつも言いたくなりそうな要素も、この作品では
なぜか許容できてしまい、やけに好意的に見ることができる。おそろしく強い敵
がいることも、町へのワープ魔法がないことも(これは、乗り物関係が充実して
いるので、まぁよしとしよう)、謎がすこしイジワルなことも、欠点として挙げ
る気にはどうしてかなれない。多くの人に受け入れられている作品だという事実
からくる、説得力の強さのせいだろうか。それとも、開発者さんたちの努力から
うまれた魅力が作品から伝わってくるせいだろうか。ここまでていねいにつくら
れていると、たとえ苦しい土俵の上でも乗ってやろうという気がしてくる。前作
の『IV』では、あちこちに配置された個性的なボスが関門となっていたが、今回
はトリッキーなパズル的要素が盛り込まれている。簡単には進めない。

 グラフィックが前作よりずっとキメこまかくなっている。おお、やるじゃん、
と思わせるビジュアルが展開する。拡大マップがぐるぐる回ったり、スクロール
したりするのがカッコいい。背景描写もとてもきれいだ。
 戦闘には前作同様、アクティブタイムバトルを採用。リアルタイムなので、目
(手)が離せない。あたらしく、HP表示の右側に、行動可能になるまでの時間
がわかるゲージがついた。敵側にもこの行動スピードゲージが出るようにしたら
比較ができて、よりおもしろくなったかもしれない。

 今回の大きな特徴は「アビリティ」だ。得意技みたいなものである。通常のレ
ベルの他に「ジョブレベル」というものがあり、戦闘で得られるアビリティポイ
ントがある一定量を越えるとジョブレベルが上がって、新しい特技を身につけら
れる。多種類のアビリティを覚えれば、多芸多才なキャラにすることも可能だ。
自分好みのキャラクターを育てることができる。しかし一度に使えるアビリティ
には制限があるので、どれを選択するかがポイントとなる。
(たとえば、白魔道士以外のジョブについている場合、白魔法を覚えていても、
「しろまほう」のアビリティをつけていないと白魔法を唱えることができない。
一度覚えたのなら、すべてをいつでも同時に使えてもいいはずなのだが、やはり
システム上、しかたがないのだろうか)
 アビリティをつけ替えるたびに最強装備を自動でしてくれる。この「最強装備」
はワンタッチポンで自動的に最強の装備をしてくれる、とても便利なコマンドな
のだが、場合によってはそれが最適とは言えない装備になってしまうので、自分
で一部装備し直すはめになる。アビリティのつけ替えはけっこうよくするから、
そのたびに再装備の必要があることもあり、めんどうだった。

 新システムの説明がゲーム中でしっかりフォローされている。読む、読まない
の選択が可能なのも親切だ。しかし、そういう親切さとは裏腹に、今回は全体的
にヒントが少ない。次に何をしたらいいかわからず、いきなりノーヒント状態に
なる。とりあえず動き回ってみるしかない。しかも「これはちょっと気がつかな
いかも」という行動をしないといけない箇所もあって、ハマる確率は上がってい
る。次に何をすべきかをできるだけプレイヤー自身に考えさせるために、ヒント
をわざと示さないようにしてリアリティを出したのだろうか。本当の冒険なら、
いちいち親切な導きがいつもあるわけではないからだ。
 風の心は「探求」。手さぐりの冒険である。自分自身で考えて行動に移さねば
ならない。それはその昔、私たちがゲームで遊びはじめたころの「コンピュータ
ゲーム」に対するまだ新鮮な気持ちに、どこか似ている。

 ゲーム中の寸劇の割合がずいぶん増えた。しょっちゅうキャラクターが自動で
動いて演技するのである。どうせやるなら、ここまで徹底したほうが良いのかも
しれない。キャラクターパターンをいくつかつくっておき、それを組み合わせる
ことで演技の表現力をアップさせている。こまかい表情や動作表現が豊かでかわ
いい。
 しかし、そのせいだけではないだろうけれど、主人公が自分自身だとは思いに
くくて、感情移入度はもう一歩だった。ストーリー上で各登場人物の過去を寸劇
で振り返ってくれるのだが、それまでひとこともそんな話が出てきていないので
妙に唐突で他人事に思えてしまう。「そうか、そうだったのか〜!」と興味深く
見ることができない。もっとあらかじめ、伏線をはっておけばよかったと思う。
説明書にバックストーリーやキャラクター紹介がなぜか書かれていないため、よ
けいにそう感じてしまう。
 前作まででやけに鼻についた「キャラを不幸な目にあわせることによって涙を
誘おうとするシナリオ」は、今回はほとんど気にならなかった。キャラの動作を
こまかく追って表現することにより、心理描写に深みが増しているおかげだろう
か。安易な方法で感動させようとするのが嫌だったわけで、ていねいに話を展開
させてくれるなら、素直に見ることができる。

 買い物システムは、どれだけステータス値が変わるのかが、購入時に同時にわ
かるほうがいい。売られている商品と同じ装備を持っているかどうかは同時にわ
かるようになっているが、それだけでは不便だ。現装備よりも弱いものを買って
しまうことがたびたびあったし、いちいち自分の装備を確認し直すのもめんどう
くさい。
 説明書は大きな一枚紙。折りたたんであるのを開けて読むタイプである。経費
節約のためなのかもしれないが、やっぱり本形式になっているほうがいい。それ
に、内容がすこし不足している。バックストーリーや魔法のレベル分けなどが書
かれていないので、プレイヤーが攻略本を買うことを前提にしているのだろうか、
という疑問がわいてきてしまう。
 音楽は良いが、私はどっちかというと『IV』の曲のほうが印象が強い。今回は
必要以上に音楽が前面に出ていず、ひっそりと自然にゲームを演出している、と
いう感じがした。じっくり聴くと、やはりいい曲ぞろいだ。

 『IV』ほどではないものの、ラスト付近の戦いがキツかった。シャレにならな
いダメージ、セーブしにくい状況。最後の戦いなどはアクションゲームをやって
いるのかと勘違いしそうになるほど、手に汗にぎる。腹筋に力が入りっぱなしで、
敵の攻撃ひとつひとつにまったく油断ができない。他のRPG作品よりもずっと、
画面への集中の度合いが高い。なにしろ、よそ見ができないのだ。負けて全滅し
てしまうとタメ息をつき、脱力。くやしい。「むちゃくちゃやりよるなコイツは」
「その強さは、ちょいとヒキョーなんじゃないのか」などと悪態をつきながら、
再挑戦する。
 それでも、ようやく目的を達し、エンディングを迎えると、それまでの苦労は
いっぺんにふきとんでしまう。すばらしいエンディングシーンが私をぴしゃりと
黙らせ、疲れを癒す。やっぱりこのゲームで遊んできてよかった、と実感する。
緊張からのここちよい解放感が後に残る。

 今までにない新しさを持ち、かつ、すごくおもしろいRPG……そんな作品を
つくりだすのは並大抵のことではないだろう。プレイヤーは「もうこんなゲーム
は飽きた」と文句を言ってさえいればいいが、では実際に自分で新鮮なアイデア
を出してみろと言われたらどうか。言うは易し、行うは難し、なのである。いい
ものをつくる過程には大変な苦労と試行錯誤がともなう。
 この作品では、あちこちで小さな新しいアイデアがいくつも試みられている。
天地がひっくり返るほどの新鮮さではないが、従来のRPGには見られないアイ
デアや表現を、たくさんつぎこんでいるのがわかる。イベントやグラフィック面
などで、さまざまな可能性に挑戦しているのだ。

 カセットでここまで表現できるのなら、もしCD−ROMでつくったらどんな
ふうになるのか見てみたくなる。マシンの性能に関係なく、そこに開発者の創造
力と技術的ノウハウが思いきりたたきこまれれば、すばらしい作品がうまれる。
重要なのは、じっくり腰をすえて作品を開発できる環境、創造性と技術力に富む
開発者の存在、そしてそれらのものを包含して活かせる、会社としての強い体質
ではないだろうか。


'94 9/2 NIFTY-Serve FCGAMEM
     ファミコン&スーパーファミコン会議室 #2895(改稿)
                    (登録日 '96/12/4)
ソフト発売1992年12月備考GM