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【スーパーファミコン】
『ファイアーエムブレム〜紋章の謎』
<FIRE EMBLEM>
発売日 1994年1月21日
定価 9800円
メーカー 任天堂(→メーカーHP
内容  キャラクターが成長していく、剣と魔法世界のファンタジー 
 シミュレーションRPG。


 ゲームで遊んでいると、反射的にリセットボタンを押してしまうことがある。
画面の結果があまりにも悪くて、このまま進むと不利だ、この状態でセーブする
わけにはいかない、というときに、「今の無しね☆」と笑ってリセットをかける
のだ。
 本当は私は、ゲームをリセットしてやり直すのは好きではない。特に、「運も
実力のうち」「自分の選んだ行動が結果に影響する(プレイヤーの判断力が問わ
れる)」という性質を持つゲームにおいてリセットをすることは、なんだかズル
をしている気分になってうしろめたい。いくら作品世界に没頭していても、リセ
ットをかけたとたん、自分とゲーム世界との間に亀裂が生じてしまう気がする。
与えられた最初の状態、起こった出来事などが、どんなにつらく不利なものでも
あえて受け入れ、そこから自分の力で道を切りひらいていく。そうやってクリア
したときの達成感は格別だ。大変ではあるが、やりがいがある。

 しかしそう思ってはいても、このゲームではどうしてもリセットをしたくなる。
ゲーム中でキャラクターが死んでしまうと、簡単には復活させられない。呪文や
アイテムで無制限にホイホイ生き還らせることのできるシステムではない。
ユニットは単なる将棋のコマではなく、それぞれが自分の名前を持つ個人で、皆、
独自の人生を生きている。ひとりひとりに個性が感じられて親しみがわき、ユニ
ットへの愛着は強くなる。苦労して育てたお気に入りキャラが死んでしまうと、
100ポイントのダメージに匹敵する大ショックである。
 キャラクターが死んだまま次のシナリオへ進むことは、彼らの死を認めたこと
になる。できれば全員、生きている状態で幸せにエンディングを見たい。何度も
リセットボタンへ手がのび、押すか押さないか迷うことになった。

 第一部と第二部に分かれている。第一部は前作のファミコン版の内容を、グラ
フィックなどをグレードアップして移植したものだ。見覚えのあるなつかしい地
形が、色合い豊かにセンス良くアレンジされている。戦闘場面の背景も真っ黒で
はなく、ていねいに景色が描きこまれていてうつくしい。パッと見、「おおっ、
これはすごい!」と感嘆するようなハデさはないが、こころ落ちつく絵である。
曲も作品世界によく合っている。足音などの効果音も、よりリアルに聞こえる。
 第二部は、第一部の後の物語がつづられている。第一部から第二部へデータを
ひきつぐことはできない。ゲームが二本入っているという感じで、どちらからで
も始めることができる。
 第一部はファミコンですでにクリアしていたけれど、とりあえず復習のつもり
で再度プレイすることにした。展開に大幅な変更はなく特に違和感はない。が、
けっこうキャラクターが殺られてしまう。どんなに強いキャラでも無理をすれば
もたないし、不意に新たな敵があらわれることもあるので運が悪いと死ぬ。一人
も死なせず進むのはかなりキツい。

 あまり何度も第一部でリセットしてやり直したので、すっかり疲れてしまった。
セーブは章単位で三ケ所、それとは別に章のなかでの途中経過を記録する「中断」
という記録方法がある。だが、これを実行するといちいちタイトル画面に戻って
しまうので、なかなか「中断」して記録をとらない。そこでやり直しになると、
その章のはじめからになってしまう。やり直すたび、ほとんどおなじ行動を繰り
返すはめになる。この作品は好きだが、おなじような作業の連続には、さすがに
嫌気がさしてくる。
 しかたない。楽しく遊ぶために、第2部ではリセットは一切、やめにしよう。
誰が死んでもそのまま進んで(主人公が死ぬと強制的にゲームオーバーだが)、
とりそこなったアイテムがあっても堪え忍んであきらめよう。そう決心した。

 リセットは絶対しないと決めたものの、実際やってみると大変。次々と倒れて
いく仲間たち。戦力はしだいに減っていく。あたらしい章が始まると、「今度こ
そ誰も死なずに突破できるだろうか。みんな、がんばってついてきてくれ」と、
気分はすっかり主人公である。
 第一部では後半でも仲間がたくさんいて、武器やアイテムもいっぱいあったの
だが、第2部ではリセットしないせいで非常に苦しい戦いとなった。ひとつの章
で活動できるユニット数は限られていて、定員を越えていると誰を出撃させるか
選ぶことになる。が、第二部ではいつも欠員があり、メンバーは全員戦いにフル
参加した。余剰人員なんてない。
 装備も満足に買えず、それぞれ自分の武器を確保するのに必死である。「その
“てつのつるぎ”、俺によこせよ」「やだっ、これはあたしのよ」「おーい、な
んか武器ないの? まったくシケてやがんなー!」「“こわれたつるぎ”がある
わよ」ってな具合で、とても貧乏くさい。武器には耐久度があって、決まった回
数使い終わると「こわれた武器」になる。普段ならそんなものはとっくの昔に捨
ててしまっているのだが、そんな情けない武器でも何も持ってないよりはマシだ
ろうと大切に持ち歩く、それほど苦難に満ちた道のりであった。

 ユニットを動かすときに移動可能範囲が示されるが、その範囲を越えてカーソ
ルを動かすことができないので、周囲の状況を確認するには一度キャンセルをし
なければならない。範囲を表示させてはキャンセルし、周りの敵の様子を調べ、
また自分のユニットのところまで戻ってボタンを押す。行動決定するまで、操作
の手数がかかる。移動可能範囲を表示させたまま周りを見ることができないのは
不便だ。めんどうなのでしっかりチェックしないでうかつに動くとア〜ラ大変、
敵の攻撃が届いてダメージをくらってしまう。

 攻撃時のアニメーションは、見ていて思わず息をつめる。攻撃を受けた痛みの
感覚が伝わってくるようだ。するどい刃先の切れ味、魔法をつかったときに起こ
る空気の振動などがよく表現されている。アニメはオフにして表示しないように
することもできて親切。アニメが出ないぶん、スピーディに戦闘がおこなわれる。
画面上の小さいキャラクターが攻撃したり避けたりするのがけっこうかわいい。
 説明書にはけっこう詳しく魔法・アイテムなどの解説が載っている。「すこし
不親切な説明かもしれないけどわからないところは攻略本を見てね」という姿勢
のゲームより好感が持てる。それでいて全部明かしてしまうのでなく、隠された
アイテムもちゃんと存在し、プレイヤーに楽しみを残しておいてくれる。
このへんのさじ加減は、さすがにうまいものだ。

 プレイ中、このまま不利な状況で進んで、最後にどうにもならなくなってハマ
ってしまったらどうしようと何度も心配した。が、工夫して全力をつくしていく
と、ちゃんとクリアできる。主人公が殺られて何度かやり直しはしたものの、自
分たちの持っている力を存分に有効に使えば、勝機は必ず見えてくる。そういう
つくりになっていることがうれしい。好きなキャラクターを最強に育てあげて、
その強さを楽しむという遊びかたもひとつあるが、リセットせずにいかに残され
た手で戦うか極めるのも、なかなか味がある。

 ユニットの死は展開に大きな影響を与えないが、あるキャラクターが生き残っ
たとき、死んでしまったとき、その組み合わせによって変化がもたらされる。
いくつもの組み合わせが織りなす、さまざまなタペストリー。どんな色調のもの
を織りあげるかはプレイヤーにゆだねられている。それがこの作品の魅力である。

'94 12/2 NIFTY-Serve FCGAMEM
     ファミコン&スーパーファミコン会議室 #5516(改稿)
(HP登録日 '96/11/6)
ソフト発売1994年1月備考なし

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