『夢見館の物語』(感想)

発売日 1993年12月10日
定価 7800円
メーカー セガ
内容  言葉をしゃべる蝶が舞う不思議な館を探索する 
 アドベンチャー。


注意:ネタばれ含む)

 ジャンルは”バーチャルシネマ”。既存の名称で言うなら”アドベンチャー”。
最初の方で出る”黒地に青の「SEGA」のロゴ”の雰囲気がいつもと違う。

 オープニングで思いっきり、ひきつけられる。「コ・マ・お・く・り・も・で・
き・ま・す・よ」ってな感じでゆっくり、ゆぅっくりと画面が動く。草むらの中
を、だんだんとスピードを増しながら、嫌でも前進させられていく。おいおい、
誰だ後ろから背中を押すのは?やめろってば、私は前へ進みたくないんだー!!
優雅な音楽にダマされるもんかー☆あ、月?がちょっとキレイだな..わあっ、
館が見えてきてしまった!近くの花が狂気の色を放っている!!恐怖の館だ、入
りたくないぞおっ!そこで画面が止まり、ぼうっと浮かびあがるタイトルロゴ。
遊園地で乗り物に乗って頭がぐらぐら来る、そういう感じをオープニングを見た
だけで味わえる。
 この兄と妹の会話、主導権は完全に妹だな。兄妹っていうよりは友達同士みた
いなしゃべり方。しかし、怖いもの知らずな妹だ。勝手に先走っちゃって、もー、
兄妹の縁切るぞー!(笑)

 館の玄関扉を開けると真っ先に目に飛び込んでくる、赤いじゅうたんが敷かれ
た長い二階への階段。この赤がまた、インパクトある。ここをのぼっていくと、
足音と時計の秒を刻む音がハモる。
 二階から下へ落ちた時の衝撃(..のわりに、立ち直りは早いな)、落ちそう
になる時のめまいがするような感覚。水の中に落ちた時は、「あー..潜ってる
..」って感じがひしひしとする。カルチャーショックとでも言うべき、新鮮な
画像(光景)が目の前にあらわれる。今までのゲームソフトのグラフィックとは
確実に一線を画する。
 館内には人が見当たらないが(蝶はいるが)、やけに生体反応が感じられると
いうか、妙に生々しい生活感がある。まるで..館自体が生きているかのようだ
(S・キングの「シャイニング」を思い出すなあ..)。

 移動は、3DダンジョンRPGほどのスムースさはなく、ちょっと「あ、アク
セスしてるな、間があくな」と思ったが、イライラするほどではない。これだけ
凄い画像を見せてもらってるのにあんまりゼイタク言っちゃいけない。平身低頭
モードである。
 グラフィックが油絵のようで、それが不気味な雰囲気を高めている。視点がぐ
らぐらと回転しながら移動したりするのでほんとに酔ってしまいそうになる。
 この作品に出演している蝶は皆、人生に絶望し、みずから望んで蝶になった。
まだ人間である自分(主人公の男の子)に、いろいろと話しかけてくる。わりと
声ははっきり聞こえるのだが、音がこもるような場所(反響してるのかな?)で
はちょっと聞き取りにくく、懸命に耳をかたむけて拝聴しなければならなかった。
文字メッセージが無いから聞き逃すわけには、どうしてもゆかない☆

 ある部屋にある”黒い絵”をのぞき込むと、そこにヒントになるどこかの場所
の様子が映し出される。そばにいるおばさんの蝶に何を言われようと、断固何度
もこのヒントを見に行った。ヒントが映るのは一瞬なのでズームアップした時、
思わず実際に身をのりだしてよく見ようとしてしまうのは私だけではあるまい。

 いろんな部屋があるが、各々そこに漂う”空気”が違う。雰囲気がものすごく
出ている。色使いがうまい。明るい色は、けばけばしいまでにまぶしく、暗い色
は実際に温度が感じられる気がするほどつめたい。明暗の表現が巧い。
 曲も雰囲気を出すのにかなりの貢献をしており、合っている。舞踏会でロンド
を踊っているかのような曲。背筋が凍りつくような曲。アイテムを見つけた時な
ど、一時曲がストップするのにハッとさせられる。効果音も良く、扉が開く時の
音とか、リアルだ。曲をずっと聴いていると眠たくなってきたりするが、「眠る
なぁーー!!ここで眠ったら、蝶になってしまうぞー!」と雪山登山をしている
気分にもなれる(ほんとか?)。

 ある箇所をよく観察する時はそこをのぞき込むと画面がズームアップされるが、
自分が「見たい」と思ったところではない思わぬ箇所が映し出されたり、ぎくっ
とするほど大きく拡大されたりする。怖いものを目の前にしている時は横を向く
ことが恐怖だ(横を見てる間に何か変化しそうで..背中を向けるなんて、さら
におそろしい☆)。

 夜、やるもんじゃないと思った。やっぱりこわい。これは”くる”。壁に何度
も体当たりしたらくずれて、そこから白骨死体が出る確率、90%っ!..とか
真剣に考える。結構、画面にのめり込んでしまうタイプの人は、ぶっ続けでやる
と危ないかもしれない。蝶にはならなくても(笑)、精神が別世界へトリップし
てしまいそうなのだ☆魂を吸い取られるとは、こういう感覚なのかもしれないな。

 昔..小さい頃は、ひとつひとつの”物”を、じっくりと観察したものだった。
その”物”とコンタクトをとるかのように、”物”を感じることができた。今は
そうではない気がする。あまりに多くの”物”が周りにあふれかえっているため、
そのひとつひとつをじっくり見ている暇(余裕)なぞ無い。ゲームもそう。次々
と繰り出される新発売ゲームを買ってはクリアし売り飛ばし、買いすぎて封すら
開けないまま(じっくり見ることの無いまま)、長期間放っておかれる。これが
当たり前になってしまっている。でも私が本当に望むのは、ひとつひとつの物を
じっくりと味わうことなのだ。今はあまりの情報量の多さに自分を見失っている。
自分が処理できうる量に、しぼり込むことが必要だ。それが、本当に大切なもの
を大切にしそこなわない道だと思うから。
 この作品は忘れていた何かをよみがえらせてくれる気がする。それが何である
かは、個人個人によって違うのだろう。


永遠のマッチマッチ箱に入ったマッチ。使っても使ってもなくならないのか
な(謎)?ライターでないところが古めかしくて味がある。

日記帳これを見つけるまではセーブが出来ない。最初に発見するまでに少し
時間がかかってしまったが、そこまでプレイした時にはもうすでにどっぷりと、
この世界にはまってしまっていた。「最初から、すぐにセーブ可能」というシス
テムにしなかったのは、プレイヤーをこの世界にハメるため、なのかもしれない
(笑)(緊張感があってよい)。セーブした時も音が鳴るだけで、徹底して文字
によるメッセージが省かれている。しかし日記つけるも何も、たったの数時間で
勝負しなければならないんだよねー。ページをめくるのは好き。コンティニュー
するとセーブした時点からスッとはじまる。ちょっとの間考えごとをしていて、
ふと我に返った..という感じがしてとても自然だ。

○○○「わ”あ”ぁぁ〜〜〜っっっっ!!」私は叫んだ。大きな声で恐怖の
叫びを発してしまった。これはあまりにも、こわすぎる!「ポーズ!ポーズ!」
と指はポーズをかける為のボタンを探すが(目は画面から外せない)、そんなも
のはどこにも無い。これを見た後、しばらく休憩してからでないとプレイ続行す
る気になれなかったくらいだ(二度と見たくない)。

時計これを手に入れた瞬間から、時間制限がつく。実際の時間でなく動いた
ぶんだけ経過する(実際の時間で一時間だと楽に回れただろうな)。時間を節約
しようとして二階から飛び降りたらいきなり一気に10分経ったのにはまいった☆
(気絶してたんだろーか(笑))15分ごとに画面に時間表示が出るけど、時計
が「はいはい、ゲームの雰囲気を邪魔しちゃってごめんなさいよ」って感じで、
つつつ...と去っていくのがかわいらしい。


バッドエンディング:じっと見ていると、寒気が走る..。ゾォ〜〜ッとする。
           目に焼きついて消えない(涙)。夢に見るぅ〜!
           こんなにも美しくそして戦慄するエンディングが、他に
           あっただろうか?
真のエンディング :もう、もう駄目かと思った..!0時3分前..。再度
           やり直してる時間は、無い。でも間に合った!嬉しい(
           時計を入手してから一度めでパスできた)。最後の部分
           の、解放感..。バッドエンディングで寒気がしたが、
           こっちは「すばらしいものを目の当たりにした時の寒気」
           がきて止まらなかった。この作品に対しての、である。

(年月が経ち、二人が大きくなったら、妹はこの時のことを忘れてしまうかもし
れないが、兄の方はきっといつまでも覚えているだろう。短い間に、彼は非常に
多くのことを学んだはずだ)

 ラストの方では時間がどんどん経っていくのでスリルがあった。この館内にい
るのもあと数十分だと思うと妙に未練?が残って、蝶たちと会話したりして時間
をつぶしてしまう(←後で時間ギリギリになって「やめときゃよかった」と後悔
したが☆)。扉の番号の法則性を必死になって考えたけど、ついにわからなかっ
た。カンでいくしかなかった。違う扉を開けてしまい、あの”絵”が視界に入っ
てきた時の軽いショック...時間が無い、時間が無いのにぃ!

 プレイ中、「うるさい、黙っててくれー!(←ゲーム中の蝶に言っている)」
「その音やめろー☆」「その絵もやめろー☆」などとつい口走ってしまう..。
私は怖いものは苦手なのだ☆しかしこれでもまだかなり”手加減”されているに
違いない。演出によって、もっと怖くしようと思えば出来るはずだ。まだこの作
品は”ファンタジー(幻想)”をオブラートにして包んである。最初から「ホラ
ー」をテーマにして全力出されたらと思うと怖い。
 そこら中にある物が物質としての確かさを失い、自由自在に変化しだしたら..
その時の恐怖は、こんなもんじゃーないだろう。同じシステムを使った次作が出
るなら、楽しみでもあり、恐ろしくもある。今度は趣向を変えてくるのかもしれ
ないけど、どっちにしろ期待したい。

 集中してプレイ(せずにいられない)したら、数時間で終わってしまう内容で
はあるが、プレイ中に受ける「感覚の密度」が濃い。強烈なインパクトがある。
私の場合、満足度は高かった。1冊の小説を読み終わった時のような、軽いここ
ちよさが残る。ああ、面白かった、と。今度はもう少し長編ものを読んでみたい。
 「恐怖」を演出した作品で思い出すのはFCの「スウィートホーム」であるが
(あれはFCにしては非常によくやっている。SFC「弟切草」、PCE「ラプ
ラスの魔」はまだ未プレイ☆)、「夢見館の物語」はCDの力と技術力をプラス
して、凄い作品に仕上がっている。幻想の世界を歩いてみたい人にはぜひ、おす
すめしたい。


'93 12/31 NIFTY-Serve FCGAMEM
     メガドライブ会議室 #466
                    (登録日 '98/1/7)
ソフト発売1993年12月備考レビュー