『サージング オーラ』<Surging Aura>

発売日 1995年3月17日
定価 8800円
メディア メガドライブ
メーカー セガ
内容  いのまたむつみキャラクターデザインのコマンドRPG。


 最大の特徴は、呪法詠唱システム。呪法の文字がユラユラと画面右から左へ流
れていくのがユニークだ。全文が流れ終わると呪法が完成し、効果があらわれる。
 戦闘開始。さて、どうやって戦うのかな、などとノンキに画面をながめている
と、相手はいきなり何やらワケのわからない言葉を唱えだす。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
 しかし呪法の言葉は、おかまいなしに動いていく。ヤバい。リアルタイムだ。
(ちっ、説明書を読んでる暇がない。こちらもすぐさま行動を起こさねば。……
あれ、どうやって操作するんだ、これ?)
 コマンド入力のしかたがわからずマゴついているあいだに、ボコボコに攻撃を
受けてしまう。

 このリアルタイムな戦闘システムは要するに、スーパーファミコン『ファイナ
ルファンタジー』シリーズの“アクティブタイムバトル”を、90度方向転換した
ものだ。FFは横向きバトル(→←)、この作品は縦向き(↓↑)である。プレ
イヤーがコマンド入力を完了するまで敵が攻撃を待っていてくれるターン制では
ないので、どんどん行動していかないと一方的に攻撃される。どっちが速く先制
攻撃できるか、競争になる。

 呪法は6属性ごとに6種類ずつ、6×6=計36種類ある。各属性の特徴がいま
いちはっきりしておらず、覚えるまでには時間がかかる。円形に並んでいる属性
アイコンにカーソルをあわせ、種類を上下キーで選択する。デザイン的にはうつ
くしいが、慣れるまで操作しづらい。それぞれの位置と効力を頭にたたきこんで
おかないと、強敵との戦いでとっさに反応できない。戦闘中のポーズ機能がない
(これは不便だ)ので、説明書をながめている余裕などないのだ。
 種類をたくさん用意したのだから、使う頻度によって主人公の得意な分野が育
っていくシステムにしたら、どうだったろうか。よく使う呪法は限られていて、
せっかく覚えても全然使わないものもある。「この属性の呪法ならまかしとけ。
あっという間に完成して、しかも強力」なんてことができれば楽しかったと思う。
ただ数が多いというだけでは、「全部使いこなせない」「操作が煩雑(はんざつ)
になる」といったデメリットのほうが大きい。

 攻撃をくらうと呪法詠唱が一時停止する。停止時間はけっこう長い。その間に
再度攻撃されると、自動的に呪法詠唱を中止してしまう。あともう少しで完成だ
ったのに、なんで途中でやめてしまうか〜この根性なし!……と思わず言いたく
なる。唱えるスピードが遅いので「もっと早口で唱えてくれ!」と、じれったく
なる。主人公のレベルが上がるにつれて詠唱スピードも上がるようにすれば、実
力がアップしたことも表現できたはずだ。たとえHPが残り1ポイントであろう
とも、勝利のためには攻撃呪法完成のほうがより重要な場合もある。この「途中
やめ」は非常にストレスがたまる。詠唱中の無防備状態は仲間にかばってもらう
こともできるが、自分で使えるシールドアイテムなどがあるとよかった。

 新しい地域に出現するモンスターは新しい呪法を唱えてくる。対抗呪法を持っ
ていないと、術をふせぐことができない。けっこうな大ダメージだ。だからまず、
どこかでカウンター呪法を入手しなければならない。なかなか、おもしろいバラ
ンスのとりかたである。呪法を無効化させる呪法を唱えるには、対象呪法の属性
を判別する必要がある。一番最初に出てくる文節が何であるかを見れば、属性を
知ることができる。いちはやく読みとって対抗呪法を準備するのは楽しい。特に
ボス戦で、お互いカウンター防御呪法を次々に繰りだすのはとてもエキサイティ
ングだ。

 敵との遭遇率はわりと高い。基本的に味方パーティのほうが強いが、全滅する
こともある。やり直しになるとかなり戻されて、一度見たデモやメッセージなど
を再度見なければならない。建物やダンジョン内ではセーブできないというシス
テムではなく、どこでもセーブのほうがよかったのではなかろうか。やり直しが
キツい。いちいちかなりの距離を歩いてセーブに戻らなければ安心して進めない
のは、テンポが損われる。
 ステータス画面を開くBボタンはメッセージキャンセル機能も兼ねているので、
たまに間違って押してしまって困る。スタートボタンのほうがいい。
 買い物は、ステータス変化が同時にわからないので、現装備よりも劣るものを
よく買ってしまう。後半では、特に使いみちや意図もないのに巨額の金がたまる。
こういうちょっとしたところにも、バランス調整の甘さが感じられる。

 拡大された一枚絵グラフィックが要所要所で出るのでCD−ROM向けっぽい
のであるが、この作品はロムカセットで発売された。呪法にしても、無声でなく
実際に音声を伴えば迫力も増すはずだが、そんなシステムは無理な注文だろうか。
 味方・敵ともに、キャラクターがいい味を出している。攻撃を受けたときや、
体力が残り少ないときなどにキャラの表情が変わるのもいい。協力してくれる2
人の仲間は呪法を使わず武器での攻撃に徹しているので、呪法師である主人公の
個性がきわだち、効果的だ。

 一応遊べる程度には完成しているが、練り込み不足。「これって、あのゲーム
と同じだ」というところがいくつもあるし、物語を展開させるのに精一杯という
感じで深みある描写が足りない。展開に起伏をつけて盛りあげる演出力に欠ける。
エンディングを見ても、何だかスッキリしない。
 「コマンドRPGの戦闘にリアルタイム性を持たせる」アイデアは、おそらく
『ファイナルファンタジー』シリーズから得たものだろう。他作品の真似を絶対
するなとは言わない。ひとつの優れたアイデアが、あちこちで幾度も使われてい
くなかで、いっそう完成されたレベルに洗練されていくこともあるからだ。安易
なパクりか、発展させるための改良なのかは、プレイしていると伝わってくる。
この作品は後者を狙ったのかもしれないが、どうも前者の域を出ていないように
思えてならない。

 ひとつのハードの中心をになうセガには、(プライドがあるなら)独創的アイ
デアで勝負してもらいたいものだ。たとえパクったとしても、元ゲームにはない
魅力を備えた力作を生み出してほしい。「RPGは専門じゃないけど需要がある
からつくろう」みたいな受動的態度が、この作品の出来に反映してしまっている
印象を受ける。RPGファンが遊びたいのは「おもしろいRPG」なのである。
RPGというジャンルのゲームなら何でもいいわけでは、ないのだ。


'95 10/7 NIFTY-Serve FCGAMEM
     SEGAゲームマシン会議室 #16926(改稿)
                  (登録日 '96/11/13)
ソフト発売1995年3月備考なし