『ナイト トラップ』<NIGHT TRAP>

発売日 1993年11月19日
定価 8800円
メディア メガCD(2枚組)
メーカー セガ
内容  館の中に忍び込む何者かを罠で退治するトラップ・アドベンチャー。


 ジャンルは“ヴァーチャルシネマ”。あえて今までのジャンル名で言いあらわ
すなら、実写のリアルタイムアドベンチャーか、シミュレーションか。見かたに
よってはアクション的な面もある。今までにない新しさを持っているため、既存
の言葉ではうまく表現できない。
 CD2枚組でDISK1と2があり、ゲーム前半が終了すると入れ替えるようにな
っている。しょっちゅう交換する必要はない。

 この作品の存在を最初に知ったのは、ある朝のTVニュース番組からだった。
外国のゲームに何やらまずい表現があるらしく、問題になっているという。映し
だされたゲーム画面は女性が暴漢に襲われているシーン。「ふーん、これがイケ
ナイのか(そんなにマズいようには見えないけどなー)。それにしても、外国の
ゲームってずいぶん進化してるんだな」。そのときは、こういう実写映像を使っ
たゲームは外国の機械でしかできないもので、日本ではこの方面の技術が遅れて
いるのだと思っていた。それが移植されてメガCDで遊べるようになろうとは、
考えもしていなかった。「未来のゲーム」に見えたのである。

 アニメ絵だと、「デッサンがおかしい、魅力にとぼしい、アクがある」などの
アラが気になることがあるのだが、この作品の映像部分は実写取り込みなので、
素材のうつくしさがそのまま出る。さすがにTV放送ほど鮮明というわけにはい
かないが、これだけ見せてもらえればじゅうぶん感動する。ひと昔前はゲーム上
でキャラがペラペラしゃべるというだけで驚天動地の出来事だったのに、今度は
TVドラマをそのまま持ってきたようなゲームで遊べてしまうなんて、本当にす
ごい進歩だと思う。ゲームに対するイメージを変えられてしまうほど、私にはカ
ルチャーショックであった。このゲームを初めてプレイした瞬間出てきたのは、
「こんなことがゲームでできるなんて!」という驚きである。
 TVのニュースでチラッと画面を見てはいたものの、実際に目の前でゲームを
始めてみると、迫力が実感できる。一部エグいシーンもあるけれど、そんなに問
題になることだろうか。実写(リアル)なのがダメだというのか? しかしそれ
なら、子供でも気軽に見られるバイオレンス映画はどうなるのだ。

 ゲームはリアルタイム進行。ある家に備えつけられた8つの監視カメラを、T
Vチャンネルを選局するようにカチカチと切り替えて保安に気をつかう。現在、
この家では事件が起こっているのである。8つのカメラを全部一度に見ることが
できたらどれだけ楽かと思うのだが、カメラ8つに対してモニターがひとつしか
ないので、一度にひとつずつの場面しか見られない。家の各所で起こる出来事は
すべて同時進行なので、行動が遅いと手遅れになる。物語は人物の会話や行動を
軸にして進行する。臨場感たっぷり、気が抜けない緊張感に満ちている。

 ゲームを進めるポイントは2つ。ひとつは、あやしい侵入者をトラップ(罠)
にハメてつかまえること。もうひとつは、家の住人の会話に耳をかたむけ、コー
ド変更情報などをチェックすることだ。何も知らずに遊んでいる人たちを横目に、
黙々と仕事をする。雪降るクリスマスの街角で、サンタクロースのバイトをして
いるような気分になってくる。
 あやしい奴らがあらわれた! さっそくトラップにひっかけてやろうとボタン
連打! しかし待て待て、トラップチャンスはまだ来ていない。画面のチャンス
メーターが赤に達しないと、いくらボタンを押してもムダなのだ。実際にその場
へ出ていき、こん棒で奴らを殴り倒したいもどかしさをじっとこらえて、ひたす
らチャンスをうかがう。

 気楽に遊んでいるとすぐに侵入者がゴキブリのごとく累積し、ついにはゲーム
オーバーになってしまう。いつどこで何が起こるかをチェックしておけばクリア
は速いだろうが、あえてメモするのをやめてみた。正解を見ながらその通りにボ
タンを押すだけではスリルが半減する。3DダンジョンRPGですらマッピング
せずにクリアしたい私の挑戦欲を、やけにそそってくれる。起こる出来事の流れ
は一定なので、何度もやり直しているうちに要領がつかめるようになる。ただし、
アクセスコード(正しい色にセットしないとトラップが作動しない)はプレイの
たびにランダムに変わり、完全にワンパターンではない。こうしたのは正解だっ
たと思う。おかげで、緊張感が持続する。
 練習をつんで腕が上がっていくアクションゲームに似ていて、捕獲成功率はし
だいに上昇していく。ある程度まではパターンを覚えて習熟し、こまめにカメラ
を切り替えれば何とかなるが、パーフェクト捕獲率をとろうとすると、記憶だけ
に頼っていてはつらすぎる。

 展開される会話を、いつまでものん気に聞いているわけにはいかない。趣味の
のぞきをやっているわけではないのだ。もうちょっと見ていたいなという気持ち
をむりやり押しこめ、害虫退治に向かう。もちろん、ただながめているだけでも
かまわないが、それだけではいずれゲームオーバーになる。侵入者の捕獲に集中
すればストーリーを味わうヒマがない、会話に聞きいっていれば捕獲がおろそか
になりゲームオーバー。そうして失敗を繰り返すうちに先へ進めるようになり、
じわじわと作品内容が頭にしみこんでくる。
 8つの場所で何が起こっているかを知っていくにつれて、家全体のイメージと
物語が、頭のなかに立体的に形成されはじめる。ゲームオーバーを何度も経験す
ることになるが、再挑戦のたびに余裕が出てきて、見そこねたシーンの断片を、
より多く見ることができるようになる。

 新鮮なモニターシステム、トラップにハメる楽しさというゲーム性だけにおぼ
れず、シナリオ面も意外性があっておもしろい。TVドラマか映画のように見ご
たえがある。出演俳優の質が良く、キャラクターがそれぞれ活きている。セリフ
吹き替えの声優も合っている。

 モニター画面が切り替わるほんのわずかの間にも、カメラ指定カーソルの移動、
およびアクセスコードの変更ができる。画面切り替え終了を待たずとも、すぐさ
ま自在に他の画面へ移ることができる。トラップがうまく働くと画面の「Trap」
の文字が点滅し、結果を最後まで見届けなくても作動が成功したことがわかる。
一瞬の出遅れが天国と地獄を分けるこのゲームにおいて、これは非常にありがた
い快適さだ。CDの読み込みも、これだけの実写画像をパッパッと切り替えてい
るにしては大変速い。これくらいの間があったほうが、瞬間の休息になって良い
くらいである。
 ただ、ときどきちゃんとボタンを押してるのにトラップをうまくかけられない
ことがあった。ついにパッドが壊れたかと思って別のパッドでやってみても変わ
らない。タイミングがまずいのだろうか。かんじんなシーンでそうなると、それ
までの苦労が水の泡になって悲しい。

 途中でポーズをかけることは可能だが、セーブというものはない。一度開始し
たら失敗か成功するまで、任務遂行あるのみ。ゲーム後半になるほど「ここまで
来て最初からやり直しは嫌だ、ミスは絶対に許されない!」という、じつに手に
汗にぎるプレイができる。
 ゲーム中の基本的なBGMは、静かに鳴く虫の声。夏の夜の、妙にゾッとする
静けさが伝わってくる。あやしい奴らがいる場面では不気味さを演出する曲がか
かるから、すぐわかる。

 操作に慣れるまで、最初はしばらくとまどう。本編を買う前に私は体験版をプ
レイしてみたのだが、説明書がなかったため理解するのが困難で、まともに遊ぶ
ことができなかった。パターンをつかむまでは、うまく操作できない。その新し
さゆえに少々とっつきにくい。難易度もけっして低くはない。やりこまないと、
おもしろさがわかりにくい。ゲーム自体はプレイヤーを選ぶのかもしれない。

 これぞCDの力である。ぜひとも実際に、この作品に触れてみる価値はある。
CD−ROMにはこんな使いかたもあるのだと、いまさらのように教えてくれる。
CD2枚組、この内容をこの値段で出すセガに熱い意気込みを感じた。一般うけ
したのかどうかは知らないが、独創性の高い力作なのはまちがいない。いいもの
が売れるゲーム市場であってほしいと、つくづく思わされる。


'94 5/27 NIFTY-Serve FCGAMEM
     SEGAゲームマシン会議室 #499(改稿)
                  (登録日 '96/11/13)
ソフト発売1993年11月備考なし