『ダウン・ザ・ワールド』
<DOWN THE WORLD
 〜FALLING DOWN INTO THE WORLD'S END
 MERVIL'S AMBITION>

発売日 1994年9月30日
定価 9800円
メーカー アスキー
内容  戦闘だけでなく移動も自動で出来る、ファンタジー・ 
 コマンドRPG。


 ナビゲーションRPG、と呼んだらピッタリだろうか。この作品でユニークな
のは、フィールド上やダンジョン内・町の中の移動にまで自動コマンドを採用し
ている点だ。
 瞬間移動の魔法&アイテムがないかわりに、場所を指定するだけで、パーティ
は自動的に目的地へ向かって歩いていく。一度行った場所は記憶され、結構こま
かい指定ができるため、「あそこへ行くにはどう行けばいいんだっけ」などと迷
うことはない。移動中いつでも好きなところで停止でき、戦闘やコマンド操作で
移動が中断した場合でも、再入力なしで続行して目的地を目指してくれる。一定
方向へまっすぐ歩き続ける「方向移動」、壁にそって歩く「壁沿い移動」まで用
意されていて、いたれりつくせり。自動で動くキャラクターの様子を見ながら、
最低限の操作をしてやるだけでいい。「RPGは歩くのが疲れる、なんてことは
もう言わせない、方向キーを押してキャラクターを動かす時代はすでに終わった」
と言わんばかりの、面倒くさがりやには大変ありがたい便利なシステムである。
 自動の部分があまりに多いと、プレイヤーに疎外感を与えかねないが、それを
フォローしているのが「ゲーム中のキャラクターが、モニターの外側でコントロ
ーラーを握っているプレイヤーの存在を視界に入れている」という設定だ。コマ
ンド使用時や会話の選択肢指定時に、主人公がプレイヤーに向かって直接、どう
するかを聞いてくる。首をかしげて困ったようにこちらを見上げる彼の仕草はな
んとも愛らしい。プレイヤーに話しかけてくるのは主人公だけでなく、ゲーム中
の特定人物も同様。自動移動に加え、これもなかなかに新鮮な試みだと思わせる。

 しかし、である。ゲームのつくりにはアラが見える。移動と同様、戦闘も自動
でおこなわれ、行動パターンを組み合わせたフォーメーションを自分で作成する
ことができるが、一見、戦略性が高いように見えて、実際遊んでみると単調な力
押しの戦闘で味わい深さがない。しかも、ボスを狙えと言っているのに立ち止ま
ったままだったりウロウロするだけだったりして、命令通りに動いてくれない。
先制されると勝手にフォーメーションが変更され、変更し直してやらないとずっ
とそのままの行動しかとらないのは、キャラクターたちを意志のない人形に見せ
てしまう。奇襲されて慌てるのはわかるが、いつまでも逃げまどってばかりいる
のは不自然だ。キャラクターの戦闘意欲と賢さが感じられない。キャラクターの
移動指示・直接攻撃の標的指定もできないため、プレイヤーの指示を彼らにうま
く伝達できず、もどかしくてたまらなくなる。これでは、戦況を掌握・管理する
司令官の立場を楽しむことができない。戦闘システムには練り直しの余地がある。

 また、カーソルを妖精の形にしたり、メッセージウィンドウの周りに飾りをつ
けたりするなど、ところどころに凝った表現は見受けられるものの、全体的に見
ると、ゲームの世界観を視覚的に支えるべきグラフィックの魅力が弱い。自動モ
ードによって傍観している時間が多いゲームだから一層、グラフィックを眺める
楽しさに欠けるのはつらい。
 特に、戦闘画面のデザインは見ごたえがないばかりか、あまり工夫されている
とは言えない。キャラクターが密集していると、魔法攻撃の方向指定矢印がキャ
ラクターの下敷きになって見づらい。キャラクターサイズが大きい場合、その影
になって小さいキャラクターが隠れてしまう。ステータス表示ウインドウが透明
なのに、数値が埋もれて見えにくくなるような背景色が使われている場所もある。

 何のために、便利な自動システムを構築するのか。それは、プレイヤーに余分
なストレスをためさせないようにし、ゲームに集中しやすくさせるためだ。しか
し、苦労を排除しすぎたゲームには、どこか物足りなさを感じる。そのあたりの
バランスをどうとるか。快適すぎることによって生じる手ごたえのなさをどう補
うか。「楽(らく)」であることは必ずしも「楽(たの)しい」に結びつかない。
自動だと確かに楽だけれど、それが楽しさを生むとは限らない。
 戦闘と移動に自動コマンドを使用することで、RPGにおいて疲労の原因とな
りがちな負担要素を軽減したまではよかったが、「自動移動」「プレイヤー自身
を勇者に見立てる」というアイデアのみで満足してしまった感があり、そこから
粘り強く面白さを深めていくための、技術力と表現力と熱意が不足している。


'98 1/27 NIFTY-Serve FCGAMEM
     ファミコン&スーパーファミコン会議室 #37489
                    (登録日 '98/2/4)
ソフト発売1994年9月備考なし