『ダークキングダム』<Dark Kingdom> |
---|
発売日 1994年4月29日 定価 9800円 メーカー 日本テレネット 内容
復讐を果たすため、徐々に任務をこなして魔王軍の下位から
上位へのしあがる。時間の経過・場面切り替えなどがある、
ドラマティックなコマンドRPG。
人間……誰しも悪のこころと善のこころの両方を持つ。あるときは片方が顔を
出し、またあるときは別の顔があらわれる。まるで別人に見えることだってある
かもしれない。しかしそのどれもが、その人の一部だ。
このゲームの主人公はいきなり魔王軍に入隊する。主人公は世界を救う勇者、
あるいはいい人間でなければならないという少々決まりきった概念が、ここでガ
ラガラと音をたてて崩れる。スタート地点は魔王の城。視点の転換である。だが、
主人公はただの悪者ではない。自分の一族を滅ぼされた彼は復讐の炎を心に秘め、
おそらくは魔王軍にいるであろう仇敵を探しだし、報復せんとしているのだ……。
この設定を聞いて「お、何だかおもしろそうじゃないか」と思うなら、あなた
は従来のRPGのワンパターンさかげんに少々うんざりしているのかもしれない。
私などはまさにそうである。たぶんこの作品の制作者も同様なのではないか。今
までとはちがうRPGの形をうみだそうとする意志が、ひしひしと伝わってくる。
オープニングがありきたりでない。ひきつけられる。なんてドキドキする設定、
ようし、やってやろうじゃないかと意欲満々でコントローラーを手にする。自分
のなかの「悪」の部分が数パーセント増幅される。これから私は、目的のために
は手段をえらばない復讐の鬼と化すのだ。悪がしこくなるというのは、けっこう
気分がよいものなのかもしれない。主人公は「敵をだますにはまず味方から」と
いうわけで、ひたすら本心を隠しつづける。正体を偽っていることのスリルが、
そこにはある。
店の主人をビビらせれば、お金を払わずにアイテムかっぱらい放題。もう「笑
いが止まらない状態」である。HP回復薬をタダでいくらでも入手できるので、
楽だ。お金稼ぎにあくせくすることがなく、物語に集中しやすい。裏では人々に
何て言われているかわかったものではないが、悪は陰口を気に病んだりはしない。
夜中に民家にズカズカ入りこんでも平気。もちろん、敵の生命を奪うことも……。
しかし物語が進むにつれて、「善と悪の違いとは何か」ということを、考えずに
はいられなくなる。
フィールド上に出てから、ランダム・エンカウントによるザコ戦がまるでない。
一部、固定敵が用意されているのみで、ほとんど邪魔されずに歩ける。森や山は
敵との遭遇率が高いからよけて通ろう、なんて心配は無用だ。とてもスムースに
目的地へ到着できる。そのかわり、魔王城へ一気に戻る魔法はあっても、町から
町への瞬間移動手段がなく、ひたすら、てくてく歩いていかなければならない。
これが少々面倒に感じるが、瞬間移動してしまうとせっかくのノン・エンカウン
トの意義が薄まるし、時間経過システムも活かしにくくなるから、こうしたのだ
ろう。あちこち歩き回らねばならないのは大変だけれど、ザコ敵が出ないため、
落ち着いてフィールド上を歩ける。
戦闘では、SWM(スイングメーター)というシステムが新鮮だ。RPGでこ
んなのは初めて見た。攻撃時にメーターの針が左右に動くので、中央に合うよう
タイミングよくボタンを押す。針の止まった位置によって攻撃値が決まる。なか
なかうまく中央で止まらない。攻撃値は、真ん中で止めるほど高く、端で止まる
ほど低くなる。RPGでは、同じ攻撃力でも相手に与えるダメージポイントは多
少上下するが、それをこういう形で表現するとは、あなどれない独創力である。
ちょっとメーターをつけただけじゃないか、と言えばそうなのだが、これだけで
もゲームの楽しさはずいぶん違ってくる。気分の高揚感が確実に異なるのだ。
メーターのグラフィックはとても美しい。両端にドラゴンを従え、画面下から
ゴゴゴッと出てくる。毎回やるのでうっとうしいかもしれないが、メーター出現
はボタンで速めることもできるし、見ていて面白いので飽きない。このSWMシ
ステムは、単調になりがちな戦闘の退屈さを緩和する役割を果たしている。
ただ、SWMによる戦闘は確かに楽しいことは楽しいのだが、普通のコマンド
RPGにおける入力よりも時間がかかり、さすがに回数をこなすと疲れてくる。
そのへんのことを考えて、全体の戦闘量は少なめに設定されているようだ。ザコ
敵との戦闘は宝箱の存在するダンジョンなどでおこなわれ、しかも遭遇率は低く
おさえてあるので苦痛になることはない。敵からの逃走も、一定レベルさえあれ
ば、かなり成功する。いつも必ずSWMで戦わなければならないこともなく、他
に「AP(アトリビュート・パワー:特殊攻撃)」という、通常のコマンド入力
方式の戦闘法も用意されている。
さて、それではダンジョンでの戦闘だけで、レベルアップはじゅうぶんなのだ
ろうか。いや、それでは負けてしまう。フィールドでの戦闘がないかわりに、別
にレベルアップ用の手段が存在する。それが「闘技場」だ。どのモンスターと戦
うか(複数選択可)、何回戦うかを、自分でセッティングする。勝ち抜き戦で、
途中で負ければそこで終了。そこまでの経験値はもらえるが、お金は得られない。
最後まで勝ち抜いた場合のみ、お金をちょうだいすることができる。現在の自分
の実力に見合った組み立てをするのがポイントだ。レベルがまだ低く、装備も整
っていないのに強すぎる相手をうっかり選び、しかも欲ばって10回戦なんてやっ
てしまうと地獄へ直行である。「しまったァァー!」と後悔しても自業自得だ。
ゲームオーバーにはならないものの、時間だけが一日、むなしく経過する。自分
で選択したのだから文句が言えない。
一回ずつ勝ち進んでいき、あと何回勝利せねば、と思いつつ戦うのはなかなか
燃える。対戦モンスターは物語が進むにつれ、より強いものになっていく。ただ、
自分たちが強くなるとわりと楽勝なので、そのぶん、同じ対戦相手との戦闘を数
多くこなさねばならなくなる。このへん、ちょっと単調かもしれない。対戦相手
が自動で選ばれ、どんな強敵が出てくるかわからない「お楽しみコース」なんて
のもあるとよかった。
パーティは主要メンバーの他に傭兵を雇うことができ、最大4ユニット(1ユ
ニットは4人で構成)まで編成することができる。一部のメンバーだけを替えた
い場合でも全部組み直さないといけないのは面倒くさい。全員均等に育てるのは
大変なので、ついメンバーを固定してしまう。私は戦闘中の部隊切り替えはほと
んどしなかった。主要ユニット以外はレベルが低すぎて、使いものにならなかっ
たからである。
セリフ回しと、それにともなうキャラの表情が楽しい。セリフが漫画みたいに
ふきだしのワクのなかに表示される。口に出してしゃべっていることと心の中で
思っていることにギャップがあったりして笑える。背景グラフィックも生き生き
しており、表現力が高い。暖炉で燃える火。湯気をたてる、何かの料理が入った
ナベ。ゆらゆらと風になびく木や草。ぼろぼろになった家屋。時の流れを感じさ
せる振り子どけい……。戦闘画面の金属的なデザインもなかなか良い。
主人公の歩行スピードは速く、イライラしない。復讐を誓っている人間がトロ
トロ歩いていたのではやはり似合わない。機敏な行動こそが、千載一遇のチャン
スをつかむための基本なのだ。主人公は魔王軍上官から任務を与えられる。任務
達成期限には余裕を持たせてあるが、ぐずぐずしてはいられない。部下を率いて、
迅速に任務を遂行せねばならない。フィールド上へ出ると、驚くほどのスピード
で時間が経過していく。ただボサッとつっ立っていても、どんどん時間は過ぎて
いく。
ゲーム世界の舞台背景など、ある程度の説明は情報としていつでもメモを読め
るので便利だが、上官から与えられる任務内容はメモされない。忘れてしまうと
困ったことになる。任務内容と達成期限をチェックしたメモ機能があるとありが
たかった。任務に関するイベントが終わると自動的に魔王城へ戻り、次の展開へ
進むようになっている。まだ達成期限までには時間があるから、観光気分でそこ
らへんを見て歩きたい気もするのだが、このほうが、展開がダラけずにすむのだ
ろう。パッパッと物語が展開してゆき、テンポがいい。緊張感がある。
戦闘中、戦闘不能状態のところへHP回復魔法(キュア系)をかけると、HP
を回復してしまうバグがあった。ダンジョン内で外への脱出アイテムを使えなか
ったり、イベントの回りかた次第ではハマってしまってリセットしするしかなく
なるところもあるようだ。曲の切り替えをミスっている部分もあった。細部まで、
ていねいに仕上げてほしい。それと、アイテムなどの効果がわかりにくい。説明
書でもほとんど説明されていないし、使っても何がどう変わったのか、はっきり
しない。
音楽は思ったよりダーク系ではなく、いい雰囲気の心安らぐ曲が多い。タイト
ル画面で流れる旋律が、ゲーム全体に活かされている。ダンジョンの曲は暗くて
不気味、というパターンをくつがえして、ゆったりした曲が流れたりする。これ
が意外といい効果をあげていて、ここちよい。
正直に告白するが、私は日本テレネットの作品群を少々、白い目で見ていた。
PCエンジンのCD−ROM作品ではアニメ絵を流すことを優先し、かんじんの
ゲーム内容のほうはイマイチおもしろくないという印象があった。全作品を遊ん
だわけではないし、それは偏見なのかもしれないが、あまりいいイメージを持っ
ていなかったのは確かだ。しかしこの作品で、このメーカーを見直した。やるじ
ゃないか。やってくれるじゃないか。この調子でどんどん、あたらしいRPGの
流れを創りだしてほしい。
ところどころ戦闘バランスがキツいときがあるし、ストーリー上「もっとこう
したらよかったのに」と思う細かい不満もあるが、そんなことはどうでもよくな
るほど、久々にわくわくさせられるRPGだった。他の多くのRPGではプレイ
ヤー側として登場する勇者のパーティが、脇役として登場するシナリオが面白い。
自分が悪者の立場で勇者たちを見ると、どうにも青くさく見える。主人公と勇者
のコントラスト(対照)が効いている。平凡なRPGに飽きている人に、特にお
勧めしたい作品だ。
'94 8/12 NIFTY-Serve FCGAMEM
ファミコン&スーパーファミコン会議室 #2403(改稿)
(登録日 '96/12/18)
ソフト発売 1994年4月 備考 なし