オリジナルダンジョンをデザインする面白さ
『カオスシード』は、自分でダンジョンを設計し、運営していくゲームだ。仙
窟(せんくつ)と呼ばれるダンジョンを掘り進んで部屋をつくり、機能させて必
要なものを生産する。補助として、仙獣(せんじゅう/動物型の生き物)を召喚
して仕事を命じ、侵入者を撃退する。最終的には生産したエネルギーを使い、死
に瀕した大地を回復させることが主人公の目的となる。
ダンジョンを自作する「ダンジョン・メイキングシステム」と並んで、この作
品の大きな特色となっているのが「風水システム」。風水とは、方位・色・五行
の属性(木火土金水)などをある法則で配置することにより、環境のなかに潜む
力を倍加(または抑制)させるための術である。風水で用いられる要素をゲーム
用にアレンジした独自のパワーアップ・ルールを使い、地の利を活かした最強の
布陣を敷く。有効な風水の組み合わせを研究して部屋に強力な攻撃機能をつけた
り、通路に罠を仕掛けたりする。仙窟を強化していくのはとても楽しい。
さらに『カオスシード』では、複数のゲームジャンルが混合していて、プレイ
感覚がかなり斬新だ。割合は、「アクション4:シミュレーション3:RPG2
:アドベンチャー1」といったところか。戦闘部分がアクションRPG、仙窟育
成部分がシミュレーション、行動選択肢を選ぶことで物語が分岐するところはア
ドベンチャーになる。
アクションの難易度は低くなく、油断したら負ける。相手の行動パターンを見
切り、間合いをはかって攻撃をしかけるアクションの基本がしっかりつくられて
いる。ボス戦では、ギリギリ勝てるか勝てないかという手ごたえを感じさせる。
キャラクター動作も表情豊かで、特にネズミやドラゴンなどの仙獣たちは、キー
ホルダーにしたくなるほど、かわいらしい。
今までのRPGでは、すでに出来上がっているダンジョン内を戦って歩くだけ
だった。その視点を逆転させて、プレイヤーに「場所をつくる楽しみ」をも与え
たダンジョン・メイキングシステムは、RPGの面白さの新境地を開く、画期的
な試みといえよう。新システムを上手く機能させたうえで、アクションとシミュ
レーションという性質の異なるジャンルを違和感なく調和させ、まとめあげた力
量には感心させられてしまう。
ストーリーの裏に流れるメッセージ
行動のしかたによって結末が変化するマルチシナリオ・マルチエンディングを
採用しており、ひとつの筋が終了するごとにエンディングを迎える。マルチシナ
リオはこの作品にじつに適した形式で、ゲームシステムをじっくり堪能し、かつ、
ストーリーの微妙な変化を味わえる一石二鳥の役割を果たしている。容量の関係
からか、同じ背景グラフィックを何度も使い回しているが、最小限のパーツで最
大限の効果をあげる、上手い使いかたをしている。フォローとして、イベントと
曲による演出で変化をつけ、単調さを打ち消す工夫をしているのも評価できるポ
イントだ。
−−まず荒地を切り拓いて耕し、土地質に合った作物の種をまき、肥料をやっ
てセッセと育て、わいてくる害虫を駆除し、収穫したものを将来のために費やす
−−仙窟維持の仕事は猛烈に忙しい。それはほとんど、農作業に似ている。
この作品が、他の勧善懲悪ものRPGと雰囲気を異にするのは、勇者に倒され
る悪者側の立場に、主人公が立たされてしまう点にもある。人間たちは勝手な理
由で仙窟に侵入してきては部屋を破壊し、仙獣を殺す。抗戦している味方の仙獣
の、断末魔の叫び。自分の畑にずかずかと踏み込まれ、苦労して育てた作物をグ
チャグチャに潰されたときのような憤りをおぼえる。「大地を蘇らせるために、
こっちは苦労してるんだ。邪魔するんじゃない!」と、真剣に怒鳴りたくなる。
主人公の想いが、実感できる。テーマを声高に叫ぶ押しつけがましさがないので、
いっそう感情移入しやすい。
マルチストーリーによって、様々なメッセージが伝わってくる。敵の姿は、私
たち自身の愚かしさを映しだす反射鏡でもある。満足を知らぬ悪欲が過去、どれ
だけ多くの幸せを壊してきたか。もつれた誤解が、どれだけ悲劇を生んできたか。
何が正しいのか。どうすることが本当はよかったのか。自分が絶対に正義だとい
いきれるのか……。
幾種類ものエンディングを目にするうち、自然と考えさせられる。どんな悪役
でも、彼らなりの事情があって行動しているのだ、と。
ゲームシステムだけでなくシナリオも、繰り返しのプレイに飽きのこない出来
だ。今度はどんな展開になるのか楽しみになる。プレイのたびに違った何かを発
見でき、新鮮さを失わないゲームデザインは、まったくたいしたものである。
動と知、両方を楽しめるゲーム
アクション部分はレベルアップや装備の充実でカバーできるが、それでもアク
ションが苦手な人には厳しい闘いもある。アクションとシミュレーションの両方
をある程度こなせなければ、途中で挫折しそうになるかもしれない。画面上のキ
ャラクター数が多くなると処理落ちするし、戦闘状況が把握しづらくなる。攻略
本がなければ発見が難しい分岐条件もある。
しかし、そういった大変さを乗り越えようと思わせる魅力を、本作は備えてい
る。システムがよく練り込まれていて、非常に奥が深い。操作しやすいコマンド
体系、複雑なルールを噛みくだいて少しずつ理解させる姿勢など、ツボを心得た
作りだ。
また、地質の初期状態が毎回変わるので、同じ仙窟はひとつも出来ない。攻略
法は手持ちの情報を応用して、プレイヤーがそのつど自分で編みだしていくのだ。
こうした自由度の高さが、このゲームの面白さの源であろう。自由度と完成度を
兼ね備えた一本に仕上がっている。
優れたシステムは、いつまでも古びることなく長持ちする。何度遊んでも、楽
しめる。『カオスシード』は、それだけの味を持った作品だといえる。
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