『ヘラクレスの栄光III〜神々の沈黙』
発売日 1992年4月24日
定価 8800円
メーカー データイースト
内容  うしなわれた記憶を求めて旅をする、コマンドRPG。


 ファミコンで2作出ている『ヘラクレス』シリーズ。当時の印象は、「妙な味
はあるけどドラゴンクエストみたい」……であった。このスーパーファミコン版
の3はえらく評判が良いようなので、ずっと気になっていた。プレイしてみると
なるほど、確かにそこかしこで、もうドラクエの亜流とは言わせない魅力と独創
性が光っている。

 コンピュータゲームの、RPG(ロールプレイングゲーム)というジャンルに
について、ちょっとイメージしていただきたい。
「ある平和な世界に巨大な悪が出現した。主人公(勇者)は仲間と力を合わせ、
これを打ちくだかねばならない」
 こまかい違いはあっても、だいたいがこのパターンではないだろうか。RPG
に限らず、アクションやシューティングでもこの黄金のパターンは多い。悪いと
は言わないがいいかげん、もっと個性的な筋の話が増えてくれてもいい気がする。

 この作品のシナリオはひと味ちがう。先が読めない。ふしぎな現象、数々の謎。
一本のミステリー小説を読んでいる気分になる。ミステリーの初めには、説明不
可能なパーツがいくつか分散して存在している。それらをかき集めて謎を解こう
としても、いっこうにまとまらない。何か足りない。真実を完成させるための重
要なパーツが、まだ出現していないのだ。そうして推理しているうちに、自然に
作品世界へとひきこまれてゆく。残念なことに、そんな出来のいい脚本はゲーム
ではめったにお目にかかれないが、この作品は、そういう楽しさを満喫させてく
れる。

 普通のRPGでは、「正義」の名のもとに、諸悪の根源と思われる最終の敵を
倒せば、めでたしめでたしエンディングとなる。力押しによるその征伐はしかし、
根本的解決にはなっていない。その証拠に、悪は必ず復活する。そしてまた同じ
ことを繰り返すのだ。なぜ「悪」がうまれるのかという原因をよく考えもせずに、
もぐらたたきのようなことをしていてもそれは対症療法にすぎない。キリがない。
その旅でいったい、何を学んだというのか。HPばかりお化けのようにふくれあ
がっても、精神(こころ)が成長しないなら、むなしいだけだ。脳みそからっぽ
で、ただ敵を倒すことしか考えていない。ストーリーで魅せるRPGであるなら、
キャラをただ操作してレベルを上げてエンディングを見るだけのものではなく、
クリアした時点でプレイヤーのこころまでも成長している、そんなものであるべ
きではないだろうか。旅の途中で仲間と心通じ合い、泣き、笑い、助けあっても、
「最後のボスさえ倒せばすべて終わるんだ」では、非常に視野がせまいと言わね
ばならないだろう。
 最後で「すべての悪は人間の心のなかにある」というセリフをラストボスにし
ゃべらせる作品もいくつか見かけるが、言葉のみが浮いた表現で、その言葉はプ
レイヤーの心を素通りし、「それはそうかもしれないね。でも、これでゲームク
リアだからハッピーエンドだよ」で済んでしまう。エピソードとの絡みが薄いた
め、テーマが心に響いてこない。この作品のいいところは、そのへんを最後のつ
けたしの言葉だけでなく全体を通して染みとおらせることにより、深く掘り下げ
てある点である。

 戦闘メッセージが楽しい。普通、コマンドRPGの戦闘メッセージというもの
は、これまたかなりワンパターン。
「てきのこうげき! ○○は**ポイントのダメージをうけた! ○○のこうげ
き! **ポイントのダメージをあたえた! てきをやっつけた! ○○は**
ポイントのけいけんちと**ゴールドをてにいれた!」
 RPGをつくるソフトメーカーに「RPG作成のためのお手本マニュアル」と
いうものが配付されているのではないかと思えるほど画一的だ。メッセージなし
で、数字表示だけで表現している作品もあるが、たいていはこんな感じである。
 この作品でもマニュアル的メッセージが使われているが、攻撃時に味方キャラ
のかけ声を入れて表現に幅を出している。戦闘メッセージなんて見ていてもつま
らないと油断していると、表示される言葉に思わず笑いだしてしまう。ウケる。
それが性格描写にもなっており、あたたかみが感じられる。ひとりひとりに親し
みがわいてきて、より感情移入がたやすい。状況に応じたこまかい変化がメッセ
ージに反映したりもする。

 ザコ敵はそんなに種類豊富ではない。強すぎて敗北することも、めったにない。
「ゲームクリアまでの時間を長くするため」の手段として、敵をべらぼうに強く
するよりも、ユニークな謎解き・凝った仕掛け配置をすることを主としているよ
うだ。戦闘によるレベルアップはそのついでという感じをうけた。パズル的要素
はいきづまりやすいかもしれないが、けっして自力で解けないことはない。一度
フル回復すればかなりの間もつので、宿屋へ戻る回数が少なくてすみ、アイテム
補助も強力である。戦闘での疲労があまりない。妨害されることなくストーリー
を楽しめる。

 「こういう絵はこう描くものだ」「この表現はこうするのが普通だ」さらには
「RPGとはこういうものだ」などの既成概念にとらわれていると、画一的な作
品ができあがってしまう。市販のRPG簡単作成ツールとちがって、せっかくシ
ステムから創れるのなら、画面デザインにしろ何にしろ、もっと自由に発想でき
ないものかと、平凡な作品をプレイするたびに思う。この作品も基本的にはシリ
ーズの延長線上にあるため、一見「普通のコマンドRPG」の姿をしているが、
常識をうち破ろうと、いろいろなことをしている。作品のウリ文句となるような
ハデなものこそないが、「スーパー***システム搭載」だの「マルチ◎◎方式
採用」だの、聞こえがいいわりにやってることはあまりおもしろくもないコケお
どしとは違う。プレイヤーがフッと「あ、おもしろいな」と気がつく小さなとこ
ろで、さりげなく新しい試みがなされているのだ。

 この作品のテーマは重い。たとえ正論でも、いきなり心をぐさっと突き刺され
たら素直に受け入れられないものだけれど、キャラクターに感情移入させながら
少しずつ少しずつ、プレイヤーに「考えて」もらう構成になっている。
 クリアしてもストーリーを完全忘却しているRPGもあるなかで、私はこの作
品のことをきっといつまでも、映像とともに覚えているだろう。心に残るすてき
な物語を、ありがとうと言いたい。


'94 4/22 NIFTY-Serve FCGAMEM
     ファミコン&スーパーファミコン会議室 #355(改稿)
                    (登録日 '96/12/4)
ソフト発売1992年4月備考なし