■見えている恐怖と、見えない恐怖
これは、ウィザードリィなのだろうか?
そう思わざるをえない。
『ウィザードリィ』はコマンドRPG史の初期に人気を得た、外国産3D
ダンジョンRPGシリーズだ。この『BUSIN(ブシン)』は、『ウィザ
ードリィ』をアレンジした新シリーズ。3Dダンジョンがより立体的になり、
広々とした空間に多数のモンスターが出現。グラフィックに迫力がある。
サウンドノベルのように、3Dダンジョン画面に文字や絵が浮かびあがっ
て話が進む。結構ひんぱんに文章が出て、いろんな人物が登場する。『ウィ
ザードリィ』よりもストーリー性・キャラクター性が強化されており、とこ
ろどころでポイント説明が表示される展開はわかりやすく、プレイしやすい。
この『BUSIN』は、さまざまな点で『ウィザードリィ』とは異なっている。
最大の違いは、戦闘ごとに自動セーブされず、3つのセーブファイルがあって、
街にいる時点から「ロードしてやり直す」ことが可能な点だ(甘さ+15)。
『ウィザードリィ』でも、裏技として「即リセット(自動セーブされる前に
ゲーム機をリセット)」すれば、その戦闘結果を「なかったこと」にできるが、
直前の状態からの再開なので、力を使い果たしている場合、結局、街へ戻る
ことができない(そして待つのは全滅。別のキャラクターでパーティの組み直し)。
大変キツかったのだが、『BUSIN』は、そこまで厳しいシステムにはなって
いない。
また、ダンジョン内をうろつき回るモンスターの姿がモヤモヤした影とし
て目に見えるので、敵の動く様子がわかる。『ウィザードリィ』では敵の姿
が見えないため、迷宮を出る一歩手前まで「モンスターに出くわす危険」が
残っていた。「モンスターの移動によって、勝手に開いたり閉まったりする
扉。扉を開けたらいきなり現れる影。振り向いたら目の前にいる。じっとし
ていても後ろからアタックされる」といった別の恐怖はあるものの、見えて
いれば避けて進むことができるし、見えていない間は安心感がただよう。
そして「ダンジョンに潜って、力が尽きぬうちに戻ってこなければならな
い」という緊張感は、使用するだけですぐに街へ戻れるアイテム「転移の薬」
によって失われてしまった(序盤から楽に入手できる。甘さ+15)。
他にも『BUSIN』には、『ウィザードリィ』にはない、独自のシステ
ムがいくつも作られている。
数人が組んで、特殊攻撃および防御をする「アレイド・アクション」。
信頼度を示す「絆(きずな)」マーク。
冒険を長く共にするほど信頼度が上がっていき、使用可能なアレイド・ア
クションが増える(行動の仕方によっては絆のランクが下がるリアルさ)。
ダッシュしてスピード移動したり、崩れかけた壁を破壊して通ったり、酒
場で出会う人物の依頼を解決することで経験値やアイテムが得られたりもす
る。
面白いのが、迷宮内で突然姿をあらわし、パーティの誰かにとりつくまで
追いかけてくる「死神」。とりつかれた状態で死ぬと、キャラクターは一気
にロストしてしまう(甘さ−5。これだけはちょっと要注意だ)。コントロ
ーラーの振動機能により、恐怖に直面した時の「手の脈がドクドクと波うつ
感覚」がうまく表現されている。
ここまでアレンジされていると、果たして、タイトルにウィザードリィの
名を入れる必然性があったのだろうかと思ってしまう。
共通するのは、「?」マークがつく未鑑定アイテムと、宿屋に泊まること
でレベルアップすることと、「死・灰・消滅(ロスト)」の段階(しかし、
「死」は100%回復可能になっている(甘さ+10))、善・中立・悪に
分類される種族と職業くらいなものだ。魔法は合成アイテムによる習得とな
り、名前もすべて別の名称に変わった。宝箱のトラップ解除は、なんと、リ
ズムアクションゲームのような「ボタン押し」だ(音は出ないが)。『ウィ
ザードリィ』では「罠のかかっていない宝箱」の方が珍しかったが、『BU
SIN』では罠がかかっている宝箱の方が少ない(甘さ+5)。宝箱の「テ
レポーター」の罠を解除しそこなって飛ばされ、いきなり壁の中に突っ込ん
で全滅、といった危険もない。
『ウィザードリィ』を「トマトソースのかかったスパゲッティをスプーン
で食べるゲーム」と表現してみよう。赤いトマトソースは血を意味する「死」
の色だ。赤い血の危険に触れながら、命綱(パスタ)をつかまねばならない。
スプーンで食べるのは食べにくい(難易度が高い)。慎重に動かさなければ、
すくいづらい(全滅したパーティを救いづらい)。
対して『BUSIN』は、「中にスライスいちごが入った甘いケーキ」だ
(ちゃんとフォークで食べる。甘いと言っても「ウィザードリィに比べれば」
であり、適度な手ごたえは持っている)。「たっぷりの生クリームを塗り、
いろんな飾りをつけた、見ばえのよいバースデーケーキ」にはロウソクが立
てられていて、暗い部屋の中でも、うっすらと明るい。いちごの「赤(ロス
トの恐怖)」は中に存在しているのだが、見えない。食べる時も、見えるの
は赤さの薄れた「いちごのスライス断面」。断面から少しだけ見える真っ赤
な部分(死神)以外の赤は、白い生クリーム(生命力)におおわれて、ほと
んど見えない。
気をつけてさえいればキャラクターがロストする危険性は低く、ロストし
てもセーブデータをロードすることによって、やり直しがきく。たいていの
RPGでは、やり直せるのが普通なのだが、そういった安心感は「ウィザー
ドリィらしさ」をロストさせてしまう。
私としては、『BUSIN』はウィザードリィ本来の緊張感が薄まってい
ることから、「外伝」と呼びたい。ウィザードリィという名前をつけず、オ
リジナルのRPGシリーズにしても充分いけると思う。
ウィザードリィ未経験者は『BUSIN』をプレイして、「これが有名な
ウィザードリィか」と思ってはいけない。異なる点がかなり多い。しかし幸
いなのは、3DダンジョンRPGとして、とても良い出来であることだ。
グラフィック・曲・効果音の質が良く、雰囲気がよく出ており、魅力的な
世界となっている。ウィザードリィ好きのゲーマーには否定されるかもしれ
ないが、難しすぎないRPGを求める人なら、『BUSIN』の方が楽しめ
るはずだ。おいしくいただけるケーキでは、ある。
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