『ネオ・ネクタリス』<NEO NECTARIS>

発売日 1994年7月29日
定価 6800円
メディア スーパーCD−ROM
メーカー ハドソン
内容  月と火星が舞台の、ウォー・シミュレーション。


 私は『ネクタリス』のファンだ。以前、ハドソンの情報新聞「ユーモア・ネッ
トワーク」の人気投票で『ネクタリス』がワースト1になったときも、あの名作
がワースト1とはどういうことだろうと、ずいぶん首をかしげたものである。
(ハドソンのソフトだけを対象にした投票だったせいもあるだろう。なにしろ、
ハドソンソフトはどれも質が高い。シミュレーションというジャンルと地味さが、
低年齢層にはとっつきにくく思えたのかもしれない)

 プレイ開始直後は、「ここがちがう。ここもちがう!」と、前作とのちがいが
やたら目についた。どうしても比べてしまう。雰囲気に慣れていないせいもあり、
ほんのささいなことまで気になってくる。媒体がHuカードからCDに変わって
おかしな変更がされていないか、ひょっとしておもしろくなくなっているのでは
ないかというよけいな心配が強すぎたために、すべて悪い方向へ解釈してしまう。
この作品を完全に受け入れることができたのは、前半を終了した後であった。

 まず音楽がちがう。前作の音色をこよなく愛している私には、CD音楽に対し
ての違和感がものすごくあった。オーケストラを聴いているようで確かにハデだ
しカッコいいのだが、どうもなじめない。それから効果音。CD音楽に負けない
ようにしてあるのか、このやぼったい重い音は何だろう。前作のかろやかな澄ん
だ音の感触が少々、失われている。ターン切り替わり時の、取ってつけたような
テンポのズレた効果音は何なんだろう。前作では音の切り替わりのリズムが良く、
プレイヤーを酔わせる魅力があった。間がうまく取れていないのではないだろう
か。工場占領時に曲が鳴らないのはさびしいし、ビジュアル表示がちょっと長く
て待たされる。
 次に戦闘場面。戦闘中に戦力データが消えてしまう。斜め見下ろし画面になっ
たのは、流行りだからだろうか? ユニットデザインも変わってしまった。個性
がちょっとなくなったように思える。かわいらしさが減った気がする。戦闘時は
どれも似たような感じで、パッと見、見分けにくい。

 このように、『ネクタリス』はこんなんじゃなかったという点がいくつも出る。
が、ひと通り文句を出しつくすと良さがわかりだす。嫌だと思っていたところが
気にならなくなり、「CDの音楽もいいじゃないか。いや、じつにすばらしい!」
と思いはじめ(笑)、やっぱりネクタリスはネクタリスだと熱中しだすころには、
「なぜこんなことが気になったのだろう」と不思議に思うほど印象が変わってい
た。やっぱり慣れである(笑)。

 システム面でいくつかの改善が見られる。敵がどれくらい移動できるか、攻撃
範囲がどれくらいあるかをヘクス表示できるようになったのは非常に便利だ。戦
略を立てやすくなった。工場にカーソルを合わせるとユニット収容数が表示され
るのもいい。これによって、いちいち工場にユニットが残ってないか中をのぞか
なくてもよくなったし、基地と工場も見分けやすくなった。主要コマンドの配置
を縦4つでなく縦2×横2というデザインにしたのも、コマンド決定をしやすく
している。前作では、上から3番めの「性能」コマンドを選ぶときに、うっかり
すべって1つ下の「終了」を選ばないよう注意する必要があったが、今回はだい
じょうぶだ。ユニットの攻撃力・防御力などがカーソルをあわせるだけでパッと
表示されるのも親切。

 難易度は高い。「最終面がいくつあるんだ?」と思ってしまうほどむずかしく
苦戦させられる面が続いたりする。かと思うと工夫しだいで簡単に落とせる面も
ある。支援・包囲・地形効果および経験値などの数値が、前作よりもはっきりと
結果に影響するようになった。状況に応じた、ほぼ納得のいく戦闘結果が出る。
それらの効果を上手に使わなければ勝てないので、嫌でも学習することになる。
 前作では相手の基地の守りが手薄で、激戦のさなかでもうまくスキをつけば基
地を占領することができた。しかし今回は甘くなく、がっちりと守られているの
で攻略はたやすくない。

 新ユニットとしてバイオ兵器が登場した。だんだんと攻撃や防御、移動力など
がアップしていく。とても強い。前作で最強と思われるギガントでさえ一人歩き
は不安なのだが、バイオ兵器ユニットはずんずん一人で歩いていって、どんどん
目の前の敵を蹴ちらしてゆく。成長しきってない今のうちに早く叩いておかねば、
というゲーム要素も出てくる。敵が開発したユニットなのでハンター同様、自分
が使えるチャンスは敵ほどにはないが、それだけに、使えるときはワクワクする。
走りすぎにさえ注意すればこんなにたのもしいユニットはない。カッコいい。

 コンピュータの行動は、容赦ないときは本当に容赦ないが、人間操作だったら
こんな行動はしないのにという行動をとることがある。保守的な奴よりは、突撃
型が多いようだ(そのほうが助かるが)。こちらの動きかたしだいで予想した通
りに動いてくれるので、罠にはめることもできる。思考スピードはあいかわらず
速い。たまに考え込むときもあるが、おおむね快適なスピードである。

 シミュレーションで楽しいのは、いかに効率的にユニットを動かして望む結果
を得るか考えることだ。作戦がうまくいったときは大変にうれしい。この作品は
そういう楽しさをじゅうぶん満喫できる。1ヘクスのズレ、行動の順番のちがい
などが戦況に影響していく。ユニットをどこに位置させるか、どう攻撃するか、
いつ退くか。最大限に有効に機能させ、力を引きだすためにはどう動くべきか。
考えに考えてゲームを進めていくのは楽しい。

 『ネクタリス』の姉妹品であるSFCソフト『アースライト』では、いきなり
思いもしない方向から新たな敵の増援部隊があらわれてパニックになったりした。
その記憶がよみがえって、つい「基地の後ろから増援が来ないだろうな……」な
どと警戒してしまう。しかし、この作品ではストーリーはあまり重視されていな
い。ゲームシステムを楽しむタイプだ。将棋を指している気分になる。どんなに
苦しい状況でも守りを固め、攻撃をきちんと受け、無鉄砲なはみ出し行動はとら
ず連携し、しかし時には「肉を斬らせて骨を断つ」で捨身の大胆な行動に出て、
展開を一気に有利に導く。将棋のおもしろさに通じるものがある。

 おまけとして、Huカード版の前作がまるごと入っているのはお得だ(ゲーム
中、待たせるほどではないがCDアクセスするし、タイトル画面で放っておくと
デモらずに『ネオ』の画面に戻ってしまうが)。前作のほうも再度遊んでみると、
『ネオ』で鍛えられたおかげか、比較的簡単に進められる。前作で楽しかったの
は航空ユニットとの戦いだった。今回はバイオ兵器が出現したため、そのへんが
ちょっと物足りなかった気もする。

 デモグラフィックがていねいに描き込まれていて、キレイ。ユニットと背景の
色も、より区別しやすくなっている。前作よりも、ユニットが背景に溶け込んで
しまいにくくなっている。敵と味方どっちかが不利になると曲がそれらしい雰囲
気のものに変化するのも、状況の空気が演出されて良い。
 セーブはバックアップRAMに4箇所できる。パスワードもある。パスワード
入力画面は前作を踏襲している。文字がシュンっと飛んでいく入力方法はセンス
がいい。バックアップRAMの容量が足りないのでセーブできないということが、
最初の一面をクリアしたところではじめてわかるのは困る。パスワードが取れる
からいいものの、できればゲーム開始前に警告してほしい。それと、セーブファ
イル名を見てステージ名かステージナンバーがわかるようになっていると便利だ
った。

 敵ターン時、どうにも不利なので降伏しようと思ったとき、敵の行動終了まで
待たねばならない。リセットして再立ち上げすると時間がかかるので、割り込み
をかけられるとよかった。攻略にあまりターン数がかかりすぎると、時間切れと
なってプレイ途中でもゲームオーバーになってしまう。何ターンでそうなるのか、
説明書に書いておいてほしかった。
 あと、最小限の行動でクリアしようとするときの励みとして、『アースライト』
のように階級システムがほしくなる。再プレイ時でも最高ランクをめざすという
目標ができるからだ(この飾り気のなさがネクタリスらしいとも言えるのだが)。
人間同志で2人プレイできるモードがあるのはいいが、自分でユニットやマップ
を配置してオリジナル面をつくれるモードもあると、さらに遊べることだろう。

 SFCの『アースライト』がSFCの持ち味を活かした作品に仕上がっていた
ように、この『ネオ・ネクタリス』もCDの味を活かして楽しめるものになって
いる。いくつかの点が改善され、より遊びやすい。ストーリーはおまけ的で、ス
テージ途中でのハデな演出などが無いためにどうしても地味ではあるが、自分で
状況を想像できる楽しさがあり、ゲームシステムそのものに集中できる。やはり、
『ネクタリス』システムはおもしろい。


'94 11/11 NIFTY-Serve FCGAMEM
     PCエンジン会議室 #1348(改稿)
                   (登録日 '96/11/13)
ソフト発売1994年7月備考なし