『スイッチ』<SWITCH>
発売日 1993年4月23日
定価 8800円
メディア メガCD
メーカー セガ
内容  スイッチを押してグラフィックの変化をながめる、
 何とも不可思議なソフト。

 どんなジャンルのゲームも、方向キーとボタンを押すことによって進む。
ひとつのゲームをクリアするまでに一体何回ボタンを押しているのか、数えきれ
ない。その「ボタンを押す」作業そのものをゲームにしたのが、この作品である。
 CDをセットし、ソフトを立ち上げるためボタンを押す。さあ、このわけのわ
からぬ不条理さにどこまで耐えられるか。やることは、画面に表示されるいろん
な種類のスイッチを気ままに押していくことだけ。
一応、ゲームの目的はちゃんとある。“世界を救う唯一のスイッチ”を探して押
せば、ゲームクリアだ。

 スイッチを押すたび、さまざまな反応が起こる。主人公がそれに巻き込まれて
悲惨なことになっても、また何ごともなかったかのように、その場面の最初から
再開する。ギャグは一発勝負の瞬間芸。……この雰囲気は以前どこかで味わった
ことがある。そうだ、昔やってた欽ちゃん(萩本欽一さん)のTV番組「良い子
悪い子普通の子」のコント。あれを思いださせる。3人のキャラクターが、ある
状況にどう反応するかを比べて笑うという番組だ。ふすまを開け、ギャグを言っ
て去っていく、あのパターンに似ている。
実際にTV番組を見ているような錯覚にとらわれる、ゲームのようでいてゲーム
でない感じ。夢を見ている気分。ワープスイッチを押すと別場面にとばされる。
ほとんどつながりのない、さまざまな空間・状況へ次々にワープしていく。そこ
には、信じられない出来事が待ち受けている。

 静かなナンセンス・ギャグ。ギャグというより、無言のかわいた笑い。
機械的にただひたすらスイッチを押しまくる。グラフィックを見て何か言いたい
のだが、妙に感覚がマヒしてしまってうまく言葉にならない。「……なに、今の」
と言うのが精一杯。「それがどうしたの」とも言いたくなる。今、目の前で起こ
ったことは何だったのか。何か深い意味が隠されているのだろうかと考えてみて
も、答えは出てこない。しだいに心はからっぽの無思考状態になっていく。こう
いう状態を「童心に還る」というのかもしれない。自分が入力装置の一部分とし
て組みこまれてしまったかのような、ふしぎな感覚を味わう。

 ギャグ全体のどれくらいまで見終わったかがパーセントで表示される。ひとつ
のシーンごとに、そのシーンで見られるギャグの数が表示されていて、いくつま
で見終わったかがわかるようになっている。しかし、どのスイッチを押したかま
では示されないので、次にまた同じ場面に来ても、すっかり忘れていたりする。
すべての絵を見たかどうかチェックできるのはいい。さまざまなシーンが豊富に
用意されているから、すべて見ようと思ったらかなり時間がかかるだろう。すで
に全部見終わった場面を堂々めぐりすることがあるとちょっとうんざりするが、
時間がたつにつれて新しい場面がすこしずつ出るよう調整されているようだ。

 押すべきスイッチの選択ウィンドウが出るので、昔のアドベンチャーゲームに
あったように、画面のすみずみまでカーソルで指定して変化ある場所を探し回る、
なんてことはしなくていい。お遊びとして、各場面に一箇所だけ隠れキャラが隠
されていて、その場所をカーソルで指定すると、キャラがビヨヨンと飛びだして
くる。一度押すたびに、飛びだす方向や距離がちがう。……なんか意味があるの
だろうか。いや、意味なんてない。小さい子にはけっこう楽しいかもしれない。
私も「誰がこんなのでよろこぶか☆」と思いつつも、ついついビヨヨンビヨヨン
と遊んでしまった。

 途中で強制的にスタート地点に戻されるところがある。すばやくリセットして
しまえばいいのだけど、そのままにしていると自動セーブされてしまい、また最
初の場面からやり直しとなる。パーセント表示がゼロに戻ったりはしないが、い
きなり勝手にセーブされるのには少し抵抗がある。今まで我慢してプレイしてき
た人のイライラが爆発するのはここだろう。
 あちこちに隠れている爆弾スイッチを押してしまうと、世界が少しずつ破壊さ
れていく。合計30回失敗すると、世界が破滅してゲームオーバー。この失敗は自
動セーブされないので、私はいつもリセットしていた(「データロード機能」が
あったら楽だったんだけど☆)。これが自動セーブされていたら、どうだったろ
う。嫌にはちがいないが、スリルは増したかもしれない。

 グラフィックに大変おもしろい味がある。芸術的かつ独創的。出てくるキャラ
クターはおかしな奴らばっかり。メルヘンっぽい絵もあるが一部、下品でエグい
(頼むからゲロ吐きだけはやめてくれ。音がリアルなものだから、ほんとに気分
が悪くなる☆)。いろんなデザインのスイッチがあり、見ていて楽しい。押した
ときの感触もうまく出ている。破壊される世界各地の建造物の絵は実物の映像を
使っている。有名なものが多いので勉強になる。音楽はなかなか音がきれいで、
上品。作曲に谷啓さんを起用したセンスは、あなどれない。

 説明書はペラペラの紙一枚で、いささか説明が不十分。しかも攻略本の宣伝が
載っていたりする。
 スイッチを押していくだけの簡単操作なので、ボ〜ッと遊んでいるうちにハッ
と気がつくとナンセンス光線を大量にあびて、脳の何パーセントかが浸食されて
しまったような気分になる。一度このソフトで遊んでしまうと、脳は確実に影響
を受けるのではなかろうか。頭のネジが一本とんでしまったかのような、奇妙な
感覚にとらわれる。ただ、これはこれで確かに味のある内容だが、あと少し展開
に変化がほしかった気はする。ほとんど平面的な一枚絵の上で何かがちょっと動
くだけ、という感じだから、単調に感じる。もう一歩、根本的なところでムチャ
クチャやってみてもよかったと思う。

 大人になるにしたがって凝り固まっていく心(固定観念)を、ほぐしてくれる。
こういう世界、こういう発想もあるのだなぁと、ゆったりした気分で毎日すこし
ずつプレイするのがおそらく一番いい。一気にクリアするぞと積極的な気持ちで
この作品に向かっても、きっと楽しくない。
「このソフトを言葉で批評することこそ、じつはナンセンスなのかもしれない」
なんて思うのは、洗脳された証拠なのだろうか(笑)。
'94 7/15 NIFTY-Serve FCGAMEM
     SEGAゲームマシン会議室 #840(改稿)
                  (登録日 '96/11/13)
ソフト発売1993年4月備考なし