『ストーリー オブ トア〜光を継ぐ者』
<The Story of Thor
A Successor of The Light>
発売日 1994年12月9日
定価 8800円
メディア メガドライブ
メーカー セガ
内容  アクション&パズル性の高いRPG。4精霊とさまざまな 
 武器を操り、多彩な攻撃と動作をこなす。

 パッケージを開ける。真っ先に目についたのは、みどり色の「メガロープレ・
プロジェクト」のプレミアムバッチだ。「メガロープレ・プロジェクト」という
のは、メガドライブソフトのRPGラインアップを強化しようという試みらしい。
本数が多ければいいってものではないが、作品数が多く出て、お互い刺激しあえ
ば、洗練された良い作品もうまれやすくなるとは思う。ぜひ、がんばってほしい
ものである。
 バッチは画ビョウみたいになっていて、差して裏でとめるタイプだ。さっそく
上着のえりにつけてみる。ピカピカ。う〜む、なんか幸せ気分。こういうちょっ
としたオマケはうれしい。バッチ代も価格に含まれているのはわかっているけど、
なんとなく得した気分になる。

 オープニングデモは、ロムカセットのわりには、なめらか。絵が妙にかたくな
って不自然に見える、ということはない。ゲーム中のグラフィックも良く、デザ
インセンスの良さが光っている。キャラクターの動きにも味がある。アイテムは
絵で表示されているが、カーソルを合わせると簡単な説明が出るので、わかりや
すい。全体マップで自分の目的地を確認することができるのも親切だ。
 プレイしていて、過去にプレイしたいくつかのゲームを思いだした。『ランド
ストーカー』、『イース』、そして『闘技王キングコロッサス』。グラフィック
で表示されるアイテムと武器、パズルを解くように進んでいく迷宮、わらわらわ
いてくるザコ敵、入ったら閉じこめられる部屋、うまく飛べずに落っこちる飛び
移りジャンプ、思考中枢神経が95%マヒするボス戦などが共通している。

 難易度はおさえられており、油断さえしなければ、すぐ死んでしまうようなこ
とはないだろう。アクションのコマンド操作もできうるかぎり単純化してあって
覚えやすい。「主人公のステータス数値のアップ」という要素のおかげで、アク
ションが苦手な人でもアクションを楽しめるのがアクションRPGの良いところ
だ。プレイヤーの技量だけに完全におんぶしきってしまわない。
 外では、じっと立ったままでいるとすこしずつ体力や精神力が回復していく。
呼吸を整え、大気からエネルギーを取り入れる。これは、プレイヤー自身にとっ
ての休息にもなる。冒険の途中で体力が少なくなって、「このまま進みたいけど、
そろそろ戻って宿屋へ泊まってアイテムも買いこんでこなくっちゃ」などと考え
なくてよい。すべては冒険のなかで手に入れていくのだ。お金を使って買い物す
るシステムもないので、ただ武器と食料を行く先々で確保し、進むべき道を探す
ことに集中できる。

 RPGでは、人々との会話が欠かせない。ひとりひとりに話を聞いて回り、情
報を得ていかねば進めない。この作品でも、村などでは人々が生活していて、主
人公は彼らと話をする。けれど、ひとたび冒険の道に踏みだせば、そこにはもう
言葉はない。メッセージ表示はほとんどない。あるのは主人公との一体感と、ど
うやって生き残るか、どうやって先へ進むかという想い、それだけだ。すべて自
分の力でものごとを見、判断していくのだ。

 パズル要素が濃い。うまく練られている。一部の仕掛けには感心してしまった。
が、ちょっとむずかしい。「どうしても進めない! ひょっとしてバグでハマっ
たのか?」と思う場所もあった。しかし、必ず解ける。あらゆることを試し、頭
を思いきり使えば進める。それでもわからない場合はどうするか。タイトル画面
で放っておくと流れだすデモを見る。そこには役立つ数々のヒントが紹介されて
いるので、いきづまったときにはおおいに助かる。ヒントなしで解きたい人は見
なければいい。こういう心配りはありがたい。これは攻略本に頼りきらない、納
得のいく難易度調整の取りかたではないだろうか。デモなどはアーケードゲーム
っぽくつくられている。いいセンスだ。

 精霊の召喚と解除が楽しい。ボタンひとつでボワッと出現、気分は「アラジン
と魔法のランプ」だ。オプションとしていろんな使いかたができ、ゲーム進行に
重要な役割を果たす。ひとりきりの冒険だけど、まったくのひとりぼっちじゃな
い。腕輪の光を放てば、精霊が来てくれる。「おしっ、行くぞっ」と走りだすと
ついてきてくれる。たのもしい助っとである。
 ストーリー性は高くない。もっとキャラクターの性格や生活環境を描きこんで
伏線をうまく張り、話を掘り下げることもできたはずだが、みずから小さくまと
まってしまった感がある。シューティングやアクションゲームによくある、申し
わけ程度のあっさりしたストーリー展開で物足りない。しかし、アクション&パ
ズルとしてじゅうぶん楽しめる、質の高いつくりだ。
 メッセージはワクで囲まれたウィンドウに出るのではなく、背景の上に直接、
表示される。大きくて見やすい文字だが、ちょっと読みにくいときもあった。
 曲は良い。ボリュームをしぼったり大きくしたりしてメリハリがつけられてい
る。そして、数々の効果音が質感をとてもうまく表現していてすばらしい。

 なぜ任天堂のマシンが現在あれだけのシェア(市場占有率)を誇っているのか
という問いに、「楽しめるRPG作品が多いから」と答えるのは的はずれだろう
か。「メガロープレ・プロジェクト」ではなく「セガロープレ・プロジェクト」
にして、メガドライブだけでなくセガサターンでも質の高いRPG作品を増やし
ていってほしい。そのとき、ゲーム業界勢力マップにどういう影響が出るか。
見てみたい。
'95 1/6 NIFTY-Serve FCGAMEM
     SEGAゲームマシン会議室 #4104(改稿)
                  (登録日 '96/11/13)
ソフト発売1994年12月備考なし