『ランドストーカー〜皇帝の財宝』
<LANDSTALKER>

発売日 1992年10月30日
定価 8700円
メディア メガドライブ
メーカー セガ
内容  立体迷路のなかを探検するアクションRPG。


−メルカトル島・メルカトルの町−

 ひろい町中を、ひとりのエルフの青年が意気揚々と歩いている。大変な冒険を
している最中だと言わんばかりのボロボロの身なりとは対照的に、表情は明るい。
ふと、最近できたばかりらしい、かわいい店の前でたちどまる。
「“てづくりの店ランドス・おいしい料理食べさせます”……へえっ、いいね。
ちょっと入ってみるか、フライデー」
 ヒョコッと彼の背中のバッグから、小さなサッキュバスの女の子が顔をだした。
彼女の名はフライデー。縁あってライルと行動をともにしている。小悪魔らしく
黒のイメージ、抜け目なさそうに光る目。しかしどこか憎めない。
「ライルってばほとんど携帯食だから、家庭の味に飢えてんでしょ」
「まーな。たまにはごちそう食って、英気を養わないと。ん、扉になんかビラが
はってあるぞ……なになに?」

<本日はライル・フライデーご一行様の貸し切りになっております>

 ふたりは顔を見合わせた。
「おまえ、予約でもしてたのか」
「そんなの、するわけないじゃない」
「だよな。とすれば、ワナか」
 目をほそめてライルが言う。
「ふん、おもしろいじゃない。入ってみようよ!」
 フライデーはまったく臆する様子がない。
 好奇心旺盛な奴だと思いつつ、自分も興味をそそられながら、店のドアの前に
ライルは立った。ひと呼吸おき、ノブに手をかける。

                 *

 カランカラン。
 扉は何の罠もなく開いた。店内はせまいが、圧迫感は感じない。あちこちに置
かれている観葉植物や植木ばちの花々のバランスがちょうどいい。部屋のなかは
こぎれいに片付けられていて、その場にいる者を落ちつかせる。表に貸し切りと
書いてあるから誰も入ってこないのだろう、他に客はいない。ライルは用心しな
がら、どさりとカウンターの席に腰をおろした。手は腰の剣にあてたままだ。
「静かだな」
「店の人はいないのかしら」
「……おーい、誰かいませんかぁー?」
 呼ぶが返事はない。不気味な静けさに耐えきれなくなってきた、そのとき。

「いらっしゃいませぇ!」
 人間族らしい人物が突如あらわれ、コップ一杯のお冷やをカウンターにトン、
と置いた。リズミカルな動作である。瞬間、ライルは1メートルほど後ろへ跳び
すさっていた。
「お、おどかすなよ! あんた今、いったいどこから出てきたんだ!?」
「ふふふ。お待ちしておりました。私は今回のあなたの冒険を、ずっと見てきた
者です。まずはバッグをおろされたらどうです?」
 言いながら店の主人は、小さな容器に入った水を、二本の指でつまんで置いた。
「こっちの小さいほうはフライデーさん用ね」
「……なんでオレたちのこと知ってる? あんたとは初対面だぜ」
 ライルの問いには答えず、ただにこにこしている店の主人を注意ぶかく見つめ
ていたフライデーが、突然カッと目を見開き、大声で叫んだ。
「ああっ! もしかして!」
「だ、誰なんだっ?」
「あなた、プレイヤーさんねっ?」
「正解☆」

                 *

「つまり」
 背中のバッグを隣の席におろしたライルはコップ一杯の水を一気に飲みほした。
「この人は、おまえの知り合いなんだな?」
 店の主人の正体が、ライルをゲームの間じゅう操作しているプレイヤーだとい
うことは、どうやらライルにはわかってもらえないようだ。それはそうだ、彼は
あくまでも自分の意志によって冒険しているのだから。ま、いくら説明してもム
ダね、とフライデーは思った。
「今日は、お好きなもの何でもごちそうしますよ。いろいろおしゃべりしながら、
ゆっくりしてってください」
「ひゃっほー! やったね! うーんと、何がいいかなぁ」
 食べ物につられてうれしそうな顔のライル。すでに警戒心のカケラもない。
「あそこにメニューサンプルがありますから、お好きなのをここまで持ってきて
ください」
 主人は入口付近の棚を指さして、そう言った。見ると、食べ物の形を型どった
ロウ細工のようなものがいくつか置かれている。
「めんどくさいな。口で注文するだけじゃダメなのか?」
「ご注文の際にはセルフサービス、それがこの世界の決まりですから」
 ライルがしぶしぶ腰をあげ、サンプルを選びに行ったあいだに、フライデーは
主人に話しかけた。
「あたいも、このシステムはめんどうだと思うわ。置いてある品数が少ないと、
いちいちその画面を出て、また入り直さないといけないんだもん」
「そうですね。そのたびに同じセリフ聞かされたりして。エケエケの実なんて、
ワゴンセールみたいにして一度にたくさん取りだせるようにしてくれれば楽なの
に、と思いましたよ。どうせ9つまでしか持てないんだし。アイテムのひとつひ
とつが貴重なものに思えるし、自分で選んで買っている、という感じは出てて、
好きなんですけど」
「おーいフライデー、おまえは何にするんだ? エケエケ料理でいいのか?」
「そうね、エケエケシチューでいいわ! ……まぁ、そこが他のゲームとちがっ
て、味わいぶかいところでもあるんだけどね」

                 *

「じゃ、これ」
 ライルがサンプルを持って戻ってきた。
「はい、カリール・ア・ライスにエケエケシチューね。すこしお待ち下さい」
 主人は料理をつくるため、奥にひっこむ。
「おまえ、よーっぽどエケエケの実が好きなんだな。今までにいったい、いくつ
食べたよ?」
「ライルが倒れてくれれば、そのぶんたくさん食べられるんだけどね」
「実を食べなきゃ体力回復魔法が使えないなんて、ちょっと情けないんじゃない
かぁ?」
「何よー、情けないのはすぐに倒れちゃうライルのほうでしょ。あたいがいなか
ったころはいったいどうしてたのよ」
「そ、そりゃあ何とかしてたさ。これでも、歴戦のトレジャーハンターなんだぜ」
「ほんとーかしら。やっぱりあたいがついてないとダメよね」
 ライルとフライデーがいつもの調子でしゃべっていると、奥にあるらしい調理
場から、食欲をそそるおいしそうな香りがただよってきた。

                 *

「さぁさぁ、お待ちどうさま! できましたよ。たんとめしあがれ」
 ほかほかと湯気をたてる料理皿がならぶ。大きなサラダボウルも中央にどんと
置かれた。エケエケ酒もある。食器類は無個性な大量生産品でなく、すべてハン
ドメイドのようだ。
「いっただきまーすっ!」
 夢中で料理をパクつき始めるライル。
「はふはふ、しっかし、さすがキング・ノールの財宝探しはメチャてごわいよな」
「そうねー。仕掛けがものすごいんだもん」
「仕掛け作った奴さ、きっと芸術家か何かだぜ」
「プレイヤーさんの感想は?」
「今までのゲームじゃ、十字キーの斜め入力なんてほとんど使わなかったのに、
この作品じゃ、それが基本でしょ。最初はむずかしそうだなぁって思ったんだけ
ど、慣れれば何とかいけますね。それよりもトリッキーな仕掛け、飛び移りジャ
ンプ、複雑に入り組んだマップには手こずりました。何度も何度も失敗して戻さ
れてダメージ受けて同じ動作繰り返して、もー嫌になりそうなくらい」
「ライルってトレジャーハンターやめても、曲芸師として食べていけるわよね」
「トレジャーハンターはオレの天職なんだ。やめる気はないね」
「洞くつとかに入ると、瞬間で脱出できる手段がないですよね。どんどん体力が
減っていく。ハッと気がついて引き返そうとしても、時遅く気絶。またセーブし
たところからやり直し。これ、すっごいくやしい。タメ息の嵐」
「……あまり一度に深入りしないほうがいいわね、確かに」
「あ、ライルくん、おかわりありますよ」

                 *

 ライルは二皿めのカリール・ア・ライスに挑戦していた。
「ちょっと水もらえるかな。これ、いけるけどすっげーカラい」
「メルカトル特産の香辛料使ってますからね」
 からになったコップに新たな水をそそぎながら、主人は話をつづけた。
「グラフィックが立体的で、魅力ありますね。今まで見てきたゲームの、平面的
画面構成と比べたら、かなり新鮮に感じます。段差の違いがパッと見てわかりに
くいところがあったり、動かないキャラが人形みたいに見えてしまうこともあり
ましたけど(笑)。難易度はけっして低くないんですが、それでも放り出せないの
は、やっぱりグラフィック、世界観、キャラクターの魅力のおかげでしょう」
「うふふ、あたい魅力あるでしょ?」
 フライデーが得意げに、ライルと主人の周りをひゅんひゅん飛び回る。
「うん、魅力的。ライルくんも好き。他のキャラの扱いは、すこし中途半端な気
がしたけどね」
「あたいとライルが目立ってればそれでいーのよ」
「……それにしても」
 主人はすこし言葉を切ると、一気にまくしたてた。
「このむずかしさには悲しいものがあります。見た目がとてもおもしろそうだか
ら、すごく期待してたんですよね。で、プレイしてみると実際、おもしろいんで
すが……もうキツくてキツくて。真剣に泣けます、この難易度は」
「あれっ。プレイヤーさん、エケエケ酒もうそんなに飲んじゃってる!」
「びんの量が半分になってるぞ」
「ゲームって、楽しむためにやるもんですよね。『ランスト』はじゅうぶん魅力
ある作品なのに、結局、アクションや謎解きが苦手な人をはねつけてる気がする
んです。苦手な人はやらなくっていいなんて考えは、すごく閉ざされてる。これ
だけ実力ある開発者なら、エンターテイメントとしてもっと多くの人が楽しめる、
遊びやすくてバランスのとれたものを創りだす力があるはずです。これじゃあ、
指でツンと押しただけで奈落の底へ落下してしまいそーに危険なバランスに思え
る。私は謎解きは好きなほうだけど、とにかくトラップが多くて、すごいストレ
スがかかりました。胃がもう痛くて。どうしてゲームやるのにここまで苦しまな
いといけないんだろうって。内容がおもしろいだけに、よけい悲しくてくやしく
て……」
「ま、不器用な人から見たら、そうなるかもね」
「おいフライデー、不器用ってハッキリ言うなよ。ホントに泣いちゃってるよ、
このひと。泣きじょうごなのかな。あのぅ、もうそのへんにしといたほうが……」
 すると主人は、ビクッとするような速度でバンッ、とカウンターを叩いた。
「これが飲まずにいられますかってー!」
 ライルとフライデーは「ひえー」という表情で身をすくめる。
「いや、私は笑いじょうごなんですよ、ほんとは。しかーし、笑えないときだっ
てあるっ! 私は大声で叫ぶ! 開発者さんのいじわるーっっ! どーしてあと
もうすこしだけ、簡単にしてくれなかったのだぁっ。そしたら、この作品のこと
とても好きになれたのにぃ!」
「今度は怒りじょうごだぞ」
 ライルは、俺もう知らねーという顔をしている。
「そうそう、ライルくん、ずっとあなたに聞きたいことがあった!」
「な、なんだ?」
「どーして、“大ジャンプ”ができないの!?」
「……」
「どーして、トゲトゲ鉄球を顔面に受けても顔が血みどろにならないの!?」
「……おかわり三杯めは期待できそうにないな……」

                 *

 ライルは水差しの水をコップにうつし、さしだした。それを飲むと、店の主人
はすこし落ちついたようだ。
「ふー、ごめんなさいね、取り乱してしまって」
「思ってることは心にためないで、パーッと吐きだしたほうがいいときもあるよ」
「そ、プァーッとね」
 無責任にあおりつつ、フライデーはシチューの最後のひとさじを口に入れる。
「そうですね。でもまぁ、場が場ですから、ちょっと控え目にします。なにしろ、
ここは由緒正しき街メルカトル。粗暴な言動はつつしまないとね☆」
「由緒正しいわりには、とばく場があったりするわね」
「人生は多かれ少なかれバクチだと思うぞ」
「んー、深いこと言いますね、ライルくんは。さすが私よりも年上だけある」
「俺なんかさぁ、いつも命がけで生きてるもん。大バクチだよ。でも、ひとつの
ところにジッとしてるなんて、退屈でしょうがねぇよな」
「あたいもおんなじ。それで故郷をとびだしたの」
「みんないろいろあるんですねぇ……」

                 *

 食後の紅茶を飲みながら、さらに三人は話していた。
「音楽も味があっていいですね。全体の曲配置もうまい。盛り上げかたを知って
ますね。宝探しっていう素材も夢があっていいです。エジプトのピラミッドの仕
掛けってこんなふうなのかなーって思ったり。まさかここまで凝ってないだろう
けど」
「大陸のほうにはもっといろんな場所があるんだぜ」
「へー、今回の冒険が済んだら、あたいも行ってみたいな」
「え? お前ずっとついてくるつもりなのか?」
「なによー、わ・る・い?」
 すぐにケンカになりそうなライルとフライデーの会話をにこにこと聞きながら、
店の主人はいつしかまどろみのなかにひきこまれていった。酔いが回ったらしい。
「あらっ? プレイヤーさん眠っちゃってる。きっととても疲れたのね」
 カウンターに両腕を枕にしてうつぶせている店の主人にフライデーが近寄ると、
すーすーという気持ちよさそうな寝息が聞こえた。
「起こすのは悪いな。じゃ、そろそろ仕事の続きに行くとするか。そっと出よう」
「そうね」
 ライルはまた背中にバッグを背負った。フライデーがそのなかへ潜りこむ。
「ごちそーさん。うまかったよ」
「おいしかったわ。あまり飲み過ぎないようにねっ」
 ふたりは眠っている主人に静かに声をかけ、店を出ていった。

                 *

 プレイヤーは夢を見ていた。そこは『ランドストーカー』の世界で、自分が実
際にライル、フライデーと楽しそうに話をしているのだ。そして、寝言をつぶや
いた。

「すっごく苦労するけど楽しい冒険……またどこかで……会えるといいね……」


'94 4/29 NIFTY-Serve FCGAMEM
     SEGAゲームマシン会議室 #324(改稿)
                  (登録日 '96/11/13)
ソフト発売1992年10月備考なし