ゲームレビュー(9)
プレイステーション
『ナイツ』
発売:1996年7月5日
メーカー:セガ
ジャンル:
☆空をとびまわる“フライトアクション”ゲーム。現実世界の少年エリオットと少女クラリスが、夢世界の魔人「ナイツ」と同化(デュアライズ)し、夢世界の危機を救うために戦う。敵を倒すのにビームを発射したりはせず、「飛ぶついでに敵に体当たりしたり、空間に穴を開けたりすることでダメージを与える」という攻撃方法を用いる。
 フライトアクションと名付けられた本作品は、ピエロに似た魔人「ナイツ」の姿で空を飛ぶ、ちょっと変わったアクションゲームである。ひとつのステージで制限時間内にアイテムを集め終わると、ボスとの一騎打ちになる。進行方向の流れに沿って飛びながら次々と得点を重ねていく様子は、ナイツを玉に見立てるなら「立体パノラマ・ピンボール」といった形容が似合う。
 幻想的なグラフィックの美しさが非常に印象深い。自然の豊かさや異質な空間をこまやかに描きだした夢世界の景観は、レベルの高い技術力および表現力を感じさせる。センスの良さが随所に見られ、部分的に切り替わる視点、趣向をこらした数々の仕掛けがプレイヤーを飽きさせない。ナイツを動かしていると、映画の一場面のように「絵になる」構図が眼前に現われ、思わず見とれる。「アクションの腕に関係なく、芸術的な動きを簡単につくりだせる」。これが『ナイツ』の大きな魅力なのだ。
 そしてゲーム世界を一段と活き活きしたものにしているのが、アクションゲームとしては新機軸のアイデア、「A−LIFE(人工生命)システム」。各ステージに出てくる卵に触れると、夢世界の住人「ナイトピアン」が誕生する。彼らはナイツの演技を見て笑顔で手を振ってくれたり、一緒になって飛んでくれたりする、とてもかわいらしい観客だ。こちらの態度によってナイトピアンの反応が変わったり、新しい種族が生まれたりする。バックに流れる曲も次第に異なる旋律を奏でだし、空気の質をわずかに変える。まさに、生きた舞台装置と言えよう。

 『ナイツ』では、ナイツ以外に少年少女のキャラクターも操作できるようになっている。これには、
・キャラを替えて遊ぶと気分転換になる
・男女どちらのプレイヤーにも親しみを持たせる
・現実世界の人物を出すことで感情移入しやすくする

 といった効用がある。ただ、二人のキャラクター設定に関しては少し「惜しい」と思った。彼らは基本的に才能と環境に恵まれた人間であり、悩みがあるにしてもその底が浅い。
「現実に妥協して夢と希望を失いかけている人たちよ。あなたの中に眠っている勇気に、どうか気づいて−−」
 このテーマを強くプレイヤーに訴えかけるには、主人公はもっとドン底の状況に落ち込み苦しむ不運な人間のほうが、より効果的だったのではないだろうか。夢を最も切実に求め、信じたいと願っているのは、そういった人びとなのだ。現実と夢の世界をしっかりと対比させてこそ、夢世界の輝きは一層ひき立つ。が、優等生を主人公にしたことでビジュアル的にはきれいにまとまる反面、プレイヤーが自分自身の状況へテーマを投影するだけの現実感には少々、欠けてしまった感がある。
 また、システムが独特なのに説明が不十分なまま実戦に突入するやり方は、どうしても取っ付きにくい印象を与える。素晴らしい世界のすべてを見ることなく、あきらめて投げだす人が出る危険性が高いのは、やはりもったいない。『ナイツ』は、やり込めばやり込むほど楽しくなるゲームなのだから。
 リングの連続通過による大量得点やアクロバット技のコツを覚えれば、曲芸飛行はもうやみつきになる。いかにうまく飛ぶか、ボスを早く倒すかによって最終得点に差が出るため、最高ランクを目指してのスコアアタックも熱い。それぞれ単独でプレイでき、1プレイあたりの時間が短いおかげで気軽に少しずつ遊べるステージ構成も、忙しい現代人にとっては嬉しい作りである。できるだけ真っ白な心で、ぜひ最後までプレイしてみてほしい。気流にのって飛翔する爽快感、風をきってスピーディに突き進むここちよさを、きっと味わえるはずだ。

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