ゲームレビュー(3)
(2/2)
プレイステーション
『サガ フロンティア』
 主人公は7キャラクターから選択する。ひとりぶんの物語は軽めのボリュームで、比較的すぐに終わる。意味ありげだけれど何も起こらない場所を別の主人公でプレイすると展開が変わり、裏に隠れていたものが見えてくる。ひとつの話をクリアするごとに、世界について少しずつ詳しくなっていく。この視点変化が新鮮だ。さまざまな連携パターンを出来るだけ多くプレイヤーに触れさせるには、主人公ごとにキャラクターを一から育てる、複数主人公システムは合っている。何度も初期状態から始めれば、弱い連携からまた覚え直すことになり、前回には起こらなかった連携を見られるかもしれないからだ。
 ひとりの主人公の話に、通常のRPG一本ぶんくらいのボリュームがあると、よほどの吸引力がなければ全キャラクターでクリアするだけの気力は起きにくい。私の場合、前作までがそうだった。が、今回は各人各様の状況設定を楽しみながら、全キャラクリアできた。長丁場の物語もいいけれど、一人一人の人生にしぼったミニストーリー集もいい。大作と呼ばれる人気シリーズの続編であっても、必ずしも壮大な物語である必要はない。もっと気楽に遊べるものであってもよい。ただ、今回は行ける場所が最初からかなりわかっていて、マップ上に新たな地名が次々と現われる楽しみはあまりない。技や術の種類も、やや少ないと感じる。多くしすぎると連携の組み合わせが莫大に増えてしまい、収拾がつかなくなるためだろうか。敵側の連携攻撃や、「見切り」を活かす場面も思ったより少なかったので、これらを見る機会をもっと増やせば、戦闘が一層エキサイティングになったと思う。

 サガシリーズの魅力とは何か。いろいろあるが、私は、そのひとつは最終戦だと思っている。「これまでの蓄積はこの瞬間のためにあった、つちかってきた力のすべてを今、全力で放出するのみ!」と真剣に戦闘に臨ませる、空間の演出がうまいのだ。この作品のボス戦もそれぞれアイデアがきいていて面白いが、クリア後の達成感の強さは少々弱いと感じた。クリアまでの時間が短いと、長いプレイ時間をかけて自然と感情移入させる効果は望めない。「何のために戦うのか」というキャラクターの心理が、プレイヤーの気持ちと同調していてこそ、戦いは盛りあがる。キャラクターとつきあう時間が短いなら、そのぶん印象的なエピソードなどでうまく演出するべきところだが、シナリオによっては描写の密度が薄く、肝心な部分の説明が抜けているため、主人公への感情移入が弱まり、クリアしても余韻より疑問のほうが強く残ってしまうのが残念だ。プレイヤーの想像力にゆだねるためにあえて描写しない部分をつくる手法ももちろんあるけれど、ストーリー性の濃い設定で奥深い物語展開を期待させるわりには掘り下げが足らず、中途半端な感じがするシナリオがいくつかある。あまりきっちり話を追いすぎて窮屈になるのも何だが、クリア後の「長い長い旅の果ての達成感」の弱さを補うためにも、話の重要な部分をていねいに描写してほしかった。ゲーム世界の構築も、若干、練り足りない印象を受ける。あともう少し密度濃く仕上げてあるとよかったのではないだろうか。

 じつは、連携の面白さを知るまでに至らなかったせいか、体験版を遊んだ段階での第一印象はあまり良くなかった。メッセージウィンドウが透明なため、文字が背景に埋もれて読みづらい。細かいところまで凝った雰囲気ある背景グラフィックも、慣れるまではゴチャついて見え、どこが通れる場所なのかはっきりせず迷う。基本的にダンジョンからの瞬間脱出は出来ないので、次の展開への手がかりが見つからないと、歩き回ってばかりで話が全然進まない。プレイヤーの行動をがんじがらめに縛らず、未知の世界を旅する自由な空気を大切にしたゲーム展開はこのシリーズの本質ともいえる特徴だが、自由度の高さは、なかなか事件が起こらないことへのいらだちをも引き起こしやすい。特にこの作品では、時としてアドベンチャー部分と戦闘部分が極端に偏る。戦闘のない状態であまり長く歩かされると戦闘好きのプレイヤーはイライラしてくるだろうし、何度戦っても勝てない強烈な強さの敵に行く手を阻まれれば、地道にザコ戦を繰り返してキャラクターを鍛えるしかない。それでも、「こんな苦労も楽しさのうちさ」と、道中の過程そのものを味わう気持ちが、このゲームにおいてはとても大切なのである。

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