ゲームレビュー(11)
プレイステーション
『夢見館の物語』
発売:1993年12月10日
メーカー:セガ
ジャンル:
☆言葉をしゃべる蝶が舞う不思議な館を探索するアドベンチャー。
数時間の夢まぼろし? いや、「夢見館」は確かに、どこかに存在している…。

 「ようこそ、夢見館へ。君は幸せだよ、今夜うつくしい蝶になれるのだから。人間などといううす汚れた衣を脱ぎ捨て、青白く光る身軽な姿へと変わることが出来る。さあ、おいで…」
 物語は、ある兄妹が蝶を見つけたところから始まる。蝶を追ううちに、昨日までは無かったはずの館の中に迷いこんでしまった妹を探して、兄は探索を開始する。その館は四年に一度(オリンピックみたい)、満月の夜にだけあらわれる、「夢見館」であった。
 グラフィック・音楽・演出が三位一体となり、強力なインパクトを放つ世界観形成がなされている。人によってはこの世界にハマり込んだまま、帰ってこれないのではないかと思うほどゲーム世界に入り込んでしまう。臨場感はバツグンである。
 視点の移動の仕方が今までのゲームには見られないもので、かなり制限はつくものの、とてもリアル。
 作品のジャンルを「アドベンチャー」でなく「バーチャル・シネマ」とSEGAが呼ぶのも、うなずける出来である。今までのCD−ROM作品のウリは、ほとんどが「アニメ!」「大容量!」「しゃべる!」だったような気がするが、この作品こそ、CD−ROMの正しい使い方だ(と言うのもヘンだが)、という気がした。
 “魔界”とは、こんな世界なのかもしれない。RPGではラストで敵の本拠地に乗り込んだりするけれど、雰囲気がそれまでのダンジョンと似たりよったりで、「凄い場所に来てしまった! ここが、最後のボスのいるところか…」という感動を得られることがあまりない。自分ちの庭のように、てくてく歩けたりする。しかし、この作品の世界は既知の材質で構成されていながらまったく未知の世界となっている。すべての物に新鮮さが感じられ、そのひとつひとつが何らかの意志を持って、そこに存在しているのだ。
 説明書にも書いてあるが、この作品にはバッドエンディングと真のエンディングの2つがある。両方とも震えが来るほどドラマティック。バッドエンディングの壮絶なまでの美しさは、特筆ものだろう。
 実際のプレイ時間は短く長持ちはしないが、とてつもなく深い印象をプレイヤーに残す、SEGA推薦の優良CG図書だ。

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