■「ヒカルの碁(ご)」
(原作:ほったゆみ 漫画:小畑 健 監修:梅沢由香里五段・週刊少年ジャンプ連載)

珍しい、碁の漫画である。私は小さい頃、父に将棋を教わり、その後、独学で本を読んで麻雀を覚えたが、碁はまだ知らない。白と黒の石を使うことは知っているが、オセロとどう違うんだろう、といった程度の認識だ。おそらく、一般的な人びとも同じなのではないだろうか。一般人になじみが薄い碁の世界を紹介する漫画、というだけでも興味深いが、この作品がヒットしているのは他にも理由がある。まず、絵のうまさが特筆もの。週刊連載であるにもかかわらず、非常にていねいに心をこめて描かれていて魅力度が高い(コミックスのカバーデザインが白と黒を基調にしているのも印象的)。原作と作画を分業にすることによって、作画に時間をかけられるメリットは大きい。作家の技量のレベルも、連載当初から比べるとぐんぐん上がっているのがわかる。先日イラスト集が発売されたが、カラー原稿がものすごく美しい。次に、キャラクターが良い。絵的な魅力だけでなく、個性的な人物がたくさん出てきて、ぶつかりあうのがいい。霊である佐為(サイ)がヒカルにくっついて会話する設定が、この作品に新鮮なファンタジー要素を与えている。そして、碁にすでにどっぷりつかっているアキラという天才少年。アキラは普通の子供らしい生活を捨てて、碁ひとすじに生きている。普通の子供にとって違世界の住人である、佐為とアキラ。その他、存在感のあるキャラクターたち。彼らと渡りあうヒカル。この関係図が成功している。少年誌なのに女性キャラはあまり出てこない。それでも人気があるのは、キャラクターが魅力的なことと、漫画の面白さの基本を守った制作姿勢のおかげだろう。昨年、「佐為編」が終わり、短編を何本かはさんだ後、本編が再開している。現在、メインキャラクターであった佐為は登場しなくなった。緊張感あふれるリアルな碁の展開だけでも充分に面白いのだが、佐為の出てこない「ヒカルの碁」は、やっぱりちょっと物足りない。もうひとつ、最近気になりだしたのが、主人公ヒカルの描写だ。主人公として、共感しづらくなってきている。ヒカルが碁のド素人だった最初の頃は、読者との接点があった(読者もヒカルと同じく、碁を知らない者が多い)。しかし、ヒカルがプロの道に入りだしてからは、読者の視点から、やや離れた感がある。佐為とのほほえましい会話も今はなく、ギャグっぽい部分も少ない。プロの世界の厳しさは出ているものの、少々シリアスすぎる気がする(その点、肩の力を抜いた短編シリーズはちょうど良いバランスだった)。この作品も、週刊少年ジャンプで私が毎週楽しみにしている漫画のひとつ。碁がわからなくても楽しめる。おすすめである。

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