『百の世界の物語』(雑誌投稿)

発売日 1991年8月9日
定価 6200円
メーカー アスク講談社
内容  ボードゲームの楽しさを取り入れた、一風変わった対戦型 
 コマンドRPG。人間同士による4人までの同時プレイ、 
 対コンピュータ戦、観戦モードがある。


 いつからだろうか。RPGで遊んでいてレベルアップに感動しなくなったのは。
どきどきしながらの旅が本当に楽しかった『ドラゴンクエスト』において、戦闘
は大変魅力のあるものだった。レベルアップの音楽が鳴り響くと、とてもうれし
かったのだ。
 あれから、雨後のタケノコのように多くのコマンドRPGが発売された。傑作
にもいくつか出合った。しかし最近は、レベルアップをさめた目で見ている自分
に気がつく。
 コマンド入力による機械的な戦闘に楽しみを見出せない。完全に作業と化して
しまい、疲れる。本来、主人公の成長は単なる数字のレベルアップで表されるも
のではなく、ストーリーの展開上でエピソードにからめて見せるべきものである
かもしれない。が、もしも戦闘というものがRPGというジャンルになくてはな
らないものなのだとしたら、退屈な戦闘が物語を味わうことを妨害している作品
が多い現状は、好ましい傾向とは言えないだろう。
 『百の世界の物語』は4人同時プレイもできる対戦RPGだ。コマンドRPG
にボードゲームをプラスしたような感じ。なかなか両者がうまい具合にドッキン
グしていて、テンポよく楽しめる。
 小気味いいレベルアップの応酬。イベントを達成したり町の人の頼みごとを果
たしたりすると次々と経験値がはいり、どんどんキャラクターがレベルアップし
ていく。次のレベルまでに必要な経験値はいくつかな、なんて気にする必要はな
い。そんなことを考える暇もないほど景気よくレベルが上がるのだ。とても気分
がいい。疲れない。対戦相手に負けないように競争するのでドキドキする。
 RPGだというのにセーブ機能がない。パスワードもない。一回こっきりのシ
ナリオで制限ターン内のクリアを目指すのみ。いやでも長時間つきあわされるス
トーリー重視型RPGとは違い、「気楽にちょこっとだけ遊んで終わる」ことが
できる。プレイのたびに町の名前やイベントの発生のしかたなどがランダムに変
わるので、同じシナリオでも完全に同じパターンにはならない。
 非常に魅力的なゲームシステムだと思う。この作品自体は容量の関係もあって
か、ある程度遊びつくしてしまうと物足りなさを覚える。グラフィックもさびし
い。底が見えるのは早いかもしれない。が、このまま埋もれさせてしまうにはあ
まりにも惜しいシステムだ。もっとより深く練り込み、シナリオ数も増やした
『千の世界の物語』なんて発売されないものだろうか。私は買うぞ。RPGに初
めて触れたころのあの感動をよみがえらせるためのヒントが、この作品には隠れ
ているような気がする。

★ゲーム批評Vol.2('94 12月発売)「読者ニヨル批評ノページ」掲載  (読者投稿・原文)(改行位置変更)                     (登録日 '97/1/8)
ソフト発売1991年8月備考レビュー

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